研究課題/領域番号 |
17K17846
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松嵜 健一郎 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (10772147)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ICL修復 |
研究実績の概要 |
生体内の細胞が基本的に静止期であることを踏まえ、静止期におけるDNA損傷の一つであるDNA架橋(ICL)の修復メカニズムを解明することを目指している。 本年度は、静止期ICL修復を解析するための実験系のセットアップと静止期ICL誘導後のDNA損傷応答、修復が存在するかを確認する予備実験を行った。また静止期ICL修復の遺伝学的解析を行うための遺伝子破壊細胞株の作製方法の確立も行った。 静止期ICL修復の予備実験ついては、培養細胞を低血清状態で静止期に同調後、ICLを短時間誘導し、その後の修復を解析した。ICL誘導後のDNA損傷応答の変化と修復に関しては、DNA損傷応答マーカーのgamma-H2AX抗体を用いたウェスタンブロット解析を行った。この予備実験の結果、二つの新しい発見があった。これまでICL修復はS期においてDNA複製フォークの進行がICLにより止められることで認識され、損傷応答が活性化すると考えられていた。しかし今回の予備実験の結果、静止期でもgamma-H2AXの増加が見られた。これは、静止期では複製フォーク以外の方法によりICLが認識され、損傷応答が活性化していることを示している。さらに、ICL誘導後72時間で、gamma-H2AXのシグナルが低下していた。これは、誘導したICLが静止期で修復されている可能性を示している。これら二つの結果は、これまで知られているS期ICL修復に加え、静止期にもICL修復が存在していることを示唆している。 研究計画で予定している実験系のセットアップに関しては、パルスフィールドゲル電気泳動、HPRT遺伝子座の変異解析、染色体異常の解析の準備が完了した。また遺伝学的解析を行うための遺伝子破壊細胞株の作製方法も確立できた。計画全体としては、若干の遅れはあるものの順調に進んでいると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体としては順調に進んでおり、静止期ICLに関して新たな修復経路の存在を示唆する結果を得られた。また今後の遺伝学的解析、分子生物学的解析の準備も進んでいる。問題点としては、細胞種により静止期同調の条件、損傷応答が異なることが分かり、今後は使用する細胞種についても検討する必要があると考えられる。また、研究計画にあるビオチン化ソラレンを用いた実験では、適切な条件を決めることができていないため、今後さらなる条件検討が必要になる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、ほぼ予定通りの研究結果が得られたため、次年度も当初の計画通り進めて行く予定である。今年度、若干遅れのあったビオチン化ソラレンの実験と細胞種の選択に関しては、条件検討にまだ時間が必要であると考えている。3年目に予定している実験の一部を次年度に行うことで、全体としての遅れがないように調整する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、siRNAによるノックダウンを予定していたが、CRISPR/Cas9を用いたノックアウトによる細胞株の作製方法が確立できたため、siRNA購入費用が必要なくなった。次年度以降の、抗体作製、定量PCR等の解析費用に使用する予定である。
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