研究実績の概要 |
生体内の細胞が基本的に静止期であることを踏まえ、静止期におけるDNA損傷の一つであるDNA架橋(ICL)の修復メカニズムを解明することを目指している。 本年度は、前年度でセットアップした実験系を用いた静止期ICL誘導後のDNA損傷応答、修復の解析を行った。また、アルコールの代謝産物であるアルデヒドによるDNA損傷とその検出系のセットアップを行った。解析の過程で発見した新規組み換え因子の解析結果を論文に発表した。 静止期ICL修復の実験ついては、培養細胞を低血清状態で静止期に同調後、ICLを短時間誘導し、その後の修復を解析した。ICL誘導後のDNA損傷応答の変化と修復に関しては、DNA損傷応答マーカーのgH2AX抗体を用いたウェスタンブロット解析を行った。その結果、S期ICL修復に加え、静止期にもDNA損傷応答が活性化していること、静止期にもICL修復が存在していることを発見した。 アルデヒドによるDNA損傷の解析において、DNA損傷応答マーカーのgH2AXと組換え修復のマーカーRAD51を指標に解析を行った。一般的なICL修復はRAD51による組換え修復によって行われることが知られているが、今回の結果、アルデヒドによる損傷にはRAD51が必要ないことを発見した。この結果は、ICL修復とアルデヒドによる損傷の修復は異なるメカニズムであることを示唆している。 来年度は、静止期ICL修復の遺伝学的解析を予定通り行う。また、今年度の結果からこれまで似た修復であると考えられていたICL修復とアルデヒド依存的な損傷の修復が異なる可能性が出てきたため、これらを違いを遺伝学的手法で解析する予定である。RAD51の解析を行ってきた中で、新規の組換え制御因子を発見するに至り、その結果を論文に発表した(Matsuzaki et al., Nature Communications, 2019)。
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