DNA架橋(ICL)、DNA-蛋白質架橋(DPC)はDNA損傷の一種であり、ヒトでは染色体を不安定化し発がん率を上昇させる。これらの損傷は、生体内で修復が行われていることは分かっているものの、その修復メカニズムは不明な点が多く残されている。これまでのところ、ファンコニ貧血の原因遺伝子群が関与している可能性が示されてきた。我々は、今回これらの損傷の内、近年注目されているアセトアルデヒド依存的なICL、DPCに注目した。アセトアルデヒドはアルコールの代謝産物であり、飲酒によって生じたアセトアルデヒドが体内でDNA損傷を起こし、発がんの原因になっていることが発見された。我々は、アセトアルデヒド依存的なDNA損傷の検出方法を確立し、その解析を行ったところ、アセトアルデヒドはDNA損傷として検出された後、72時間以内に約80%が修復されることを発見した。また、アセトアルデヒド依存的なDNA損傷の遺伝学的解析を進めたところ、相同組換えに大きく依存していることが分かった。最後に、飲酒によって生じるDNA損傷を防ぐ方法を探索したところ、果物に多く含まれる食品成分を利用することで、DNA損傷の頻度が低下することを発見した。今回、生体内で生じるICL、DPC修復に関して、検出系の確立、遺伝学的解析、応用研究を並行して進めることができた。 さらに相同組換えによる修復の解析を行ったところ、新規の相同組換え制御因子FIGNL1を発見した。FIGNL1は、相同組換えの抑制因子であり、過剰な相同組換えを防ぎ染色体の安定性を維持していることが分かった。
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