本研究は、神経細胞や腸管上皮細胞などの極性細胞がどのように極性を形成するか解明することを目的とし、細胞内において蛋白質を輸送する小胞と細胞膜との融合に働くSNARE蛋白質の一つであるSNAP23の組織特異的遺伝子欠損マウス(KOマウス)の解析を行った。 神経特異的SNAP23 KOマウスでは大脳皮質や小脳の形成不全が観察され、SNAP23が胎生期の脳の組織形成に必須の分子であることが示唆された。発生中の大脳皮質や小脳においてSNAP23は神経前駆細胞の頂端側に豊富に存在しており、細胞間接着分子であるN-cadherinの頂端膜への局在化に寄与していることが明らかとなった。この細胞間接着の制御を介してSNAP23は神経前駆細胞の極性形成に重要な役割を担っていることが示唆された。 次に、N-cadherinの細胞膜局在化においてSNAP23と共同で働くSNARE蛋白質の同定を行った。神経前駆細胞の溶解液を用いて抗SNAP23抗体による免疫沈降を行い、質量分析によって結合蛋白質の同定を行ったところ、複数のSNARE蛋白質が得られた。これらのSNARE蛋白質の中で、N-cadherinの細胞膜局在化に関与する分子をノックダウンスクリーニングによって検討したところ、2つのSNARE蛋白質がN-cadherinの細胞膜局在化に関与することが明らかとなった。さらに、これらのSNARE蛋白質が個体内でも同様の働きをするか、CRISPR/Cas9によるKOを子宮内エレクトロポレーション法によって行った。その結果、これらの分子がマウス胎児大脳皮質の神経前駆細胞においてもN-cadherinの細胞膜局在と細胞間接着の形成に関与することが明らかとなった。
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