気道上皮細胞シートの粘液繊毛クリアランス異常は、多くの気道疾患と関わり、in vitro での疾患モデリング系の確立は重要である。研究代表者はヒトiPS 細胞から気道繊毛上皮細胞の分化誘導法を確立したが「一方向性の粘液流を生み出す細胞間の繊毛協調運動の確立」は未だ達成できていなかった。 本課題では(1)ヒトiPS 細胞由来の気道上皮細胞における細胞間の繊毛協調運動の確立、(2)ライブセルイメージングを用いた細胞間の繊毛協調運動の形成過程のメカニズムの解明を目的として研究を行った。 研究実績としては、(1)に関しては、多繊毛協調運動が阻害される疾患をモデルとして比較解析系を樹立するため、研究協力者の京都大学後藤慎平特定准教授のグループで開発された一細胞レベルで繊毛運動異常が生じる原発性繊毛機能不全症の疾患モデルiPS細胞(CRISPR-CAS9システムを用いて健常者由来細胞から疾患原因遺伝子をノックアウトした細胞)由来の気道繊毛上皮細胞を用い、ハイスピードカメラによる繊毛運動パターン解析と蛍光ビーズの細胞シート上の動態解析を行い一細胞/細胞集団レベルでの機能の表現型を抽出・解析する方法を確立した。また培養時に特定のメカニカル刺激を加えることで、一定の多細胞間繊毛協調運動が形成され、細胞シート内の平面極性コア蛋白の局在を評価し定量解析する系も確立した。 (2)に関しては、大阪大学で、繊毛の根元の構造である基底小体と繊毛の動きの向きを規定するBasal Footのそれぞれの蛋白質を蛍光ラベルしたトランスジェニックマウスの初代培養の気道繊毛上皮細胞シートに対して超解像顕微鏡を用いてライブセルイメージングを行い、一細胞レベル/複数個の細胞集団レベルでの多繊毛協調運動の確立過程を数理解析し、平面極性コア蛋白とアピカル細胞骨格に依存する多繊毛協調形成の新たなモデルを確立し論文投稿準備中である。
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