研究課題/領域番号 |
17K17856
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内橋 俊大 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (60757839)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウイルス療法 / 口腔癌 / リンパ節転移 / 遺伝子治療 |
研究実績の概要 |
口腔扁平上皮癌頸部リンパ節転移に対するウイルス療法の可能性を検討するべく、第三世代のがん治療用HSV-1であるG47Δをもとに作成された、2種類のウイルス(T-01,T-B7-1)の抗腫瘍効果の検討をin vitroおよびin vivoにて行った。ウイルス療法において、宿主の抗腫瘍免疫の賦活化は極めて重要な要素であるため、その主たる役割を担うTリンパ球の活性化に必要な共刺激因子の一つであるB7-1を可溶性にしたT-B7-1を用いることで、リンパ節内のTリンパ球活性をより増強し、リンパ節転移を強力に抑制するという仮説に基づき検証した。結果、T-01、T-B7-1はin vitroにおいてヒトおよびマウスの扁平上皮癌細胞に対し同等かつ充分な殺細胞効果を示した。一方、正常な免疫能を有するマウス皮下腫瘍モデルにおいては、T-01投与群と比較し、T-B7-1投与群では有意差をもって腫瘍抑制効果がみられた。また、同マウスの舌癌頸部リンパ節転移モデルにおける抗腫瘍効果の検討においては、舌局所投与において頸部リンパ節の大きさ、及びリンパ節内の腫瘍細胞数に関しては、T-01はMockと比し有意差は見られなかったが、T-B7-1は、Mockに比し有意にリンパ節巣の抑制効果を示した。生存期間においてもT-B7-1投与群が長い傾向にあった。さらに、ウイルスと抗CTLA-4抗体を併用したところ、皮下腫瘍モデル及び舌癌頸部リンパ節転移モデルいずれにおいてもウイルスと抗CTLA-4抗体の併用群はウイルス単独群と比較し、有意な抗腫瘍効果を示した。以上により、可溶性B7-1発現型がん治療用HSV-1は、口腔癌、とりわけ頸部リンパ節転移における非常に有効な治療手段の一つとなりうることが示された。また、ウイルス療法単独に加え、免疫チェックポイント阻害剤を併用することにより、更なる効果の増強の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備実験ならびに先行研究より導き出した仮説に基づき実験を行ってきたが、概ね仮説と逸脱しない結果がでている状況であり、今後さらにウイルスや抗体の併用によりさらなるウイルス療法の口腔癌への応用につながる結果が期待できる。一方、その効果のメカニズムについては、いまだ実験方法の煩雑さや複雑さや、また、極めて微小な環境下での実験であるため差が明確に出ない実験もあり、今後さらなる検証、他の方法を用いた実験が必要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年まで行ってきた実験の効果のメカニズムを免疫組織学的にもしくはフローサイトメトリーを用いて検討する。および顎骨破骨細胞の分化・成熟は、骨芽細胞が分泌するRANKLが前駆細胞のRANKに結合することによりNF-κBの経路を活性化させおこる。PTHrPはこの骨芽細胞のRANKL放出を強化し、破骨細胞の活性化の一端を担っている。そのほか、M-CSFやTNF-αも破骨細胞の分化に必要な因子とされている。IL-12は主にTリンパ球やNK細胞の活性化を促すサイトカインとして知られているが、骨関連の研究では破骨細胞の分化阻害に関与しているという報告が散見される。 マウスの扁平上皮癌細胞株である SCCVII を用いた顎骨浸潤モデルに対する、マウスの IL-12 を遺伝子導入された第三世代のがん治療用HSV-1の治療効果を検討する。このモデルでは、骨浸潤、骨破壊部においては IL-6 や PTHrP、 TNF-αなどのサイトカイン発現の上昇がみられることが報告されており(Nomura, et al. oral oncology 2006)、ウイルスの発現する IL-12 により顎骨浸潤の抑制効果が期待される (図4)。まずは T-01 での骨浸潤部への効果を mock と比較し、顎骨浸潤モデルにおける生存期間を比較する。その後、ウイルスが骨浸潤部にまで到達しているのか、HSV の免疫染色で検討する。また、腫瘍浸潤断端での破骨細胞の動態 (骨吸収像) を TRAP 染色で検討する。
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