研究課題/領域番号 |
17K17863
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷 洋介 大阪大学, 理学研究科, 助教 (00769383)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子エレクトロニクス / 単分子素子 / 化学平衡 / 一分子計測 / ベンゾイン |
研究実績の概要 |
本研究では化学平衡下におけるある1分子の時間的にランダムな分子の構造変化に注目し、(1)動的応答性(時間変化する電気特性)を示す単分子素子の開発、(2)同素子を用いた単一分子の化学反応の熱力学的・速度論的解析と制御、の2つを目的とする。 平成29年度は当初の計画に従い、分子の設計・合成、ブレークジャンクション法(STM-BJ法およびMCBJ法)による金-単分子-金架橋の形成と基礎的な伝導特性の評価、分子の再設計、というサイクルによって構造最適化を行った。このとき、分子をアンカー部位(金との接合に重要)と母骨格に分けてそれぞれ評価を試みた。具体的には、ベンゾイン骨格を有する分子に対してアンカーの最適化を行い、次いで同アンカーを有するいくつかの母骨格を合成した。 具体的な成果として、(i)ベンゾインを母骨格とするアンカーの異なる分子を複数種類合成し、STM-BJ法によって単分子伝導特性を評価した結果、アルキニル基がもっとも明瞭な伝導特性を示すことを明らかにした。(ii)平衡反応が進行しないと考えられる低温・真空下においてMCBJ法によって電流―電圧特性を評価し、期待した非対称な伝導特性(整流性)を観測することに成功した。一方、同条件下で電流値の時間変化を計測したところ、予想に反し、電流値がランダムに時間変化することを見出した。いくつかの対照分子を合成・計測し、その起源を明らかにすべく検討を進めている。(iii)アルキニル基をアンカーとして、他の2つの母骨格を有する分子を合成した。それぞれ単分子伝導特性を評価したところ、母骨格がアンカーの特性に無視できない影響を与えている可能性が示唆された。現在、より適したアンカーを探索している。 以上の成果は有機合成と先端計測の融合により達成されたものであり、分子の構造とその単分子素子特性、特に時間変化する伝導特性について、重要な知見が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画においては、3種類の分子骨格を決定し基礎的な単分子伝導特性の評価が終了しており、次年度からはより詳細な動的応答性の評価に移る予定であった。これに対する進捗状況はおおよそ7割程度にとどまっている。すなわち、基本的な合成経路の確立と伝導特性の評価による分子構造の最適化は進展している一方で、いくつかの分子で予想外の伝導特性がみられたことから、計測対象の分子を確定するには至っていない。 しかしそれら予想外の結果は本研究に対し否定的なものではなく、むしろ、新たな分子設計指針および単分子物性を拓くものと期待できる。研究の過程でベンゾインに対し最適と判断したアルキニル基アンカーはこれまであまり研究例がなく、その詳細な検討によって当初の計画を超えた成果が得られている面もあるため、おおむね良好な進捗状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には当初計画に従って推進する。すなわち、当初から三種の分子設計を並行して合成・評価していく予定であり、実際にそれぞれの進捗に合わせてより発展的な計測を行っていく。合わせて、前年度に予想外ながら見いだされたいくつかの単分子伝導特性についても、関連分子の合成と評価を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関連する他の予算からの配分が多く得られたため、予定より支出を抑えることができた。差額についてはより迅速な研究推進のため、合成試薬を中心として効率的に使用する。また、発展的な研究に対しても使用を検討する。
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