研究課題/領域番号 |
17K17868
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 徹 大阪大学, 生命機能研究科, 招聘研究員 (50771135)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 運動 / ドーパミン / 大脳基底核 / モチベーション / 報酬 |
研究実績の概要 |
本研究では、中脳ドーパミンニューロン-線条体ドーパミン受容体のシグナル経路が、報酬系運動課題の遂行に重要であるという仮説を検証し、意志・モチベーションによる運動遂行とその制御の脳内メカニズム解明を目指している。 研究代表者らが開発・運用してきた行動実験装置「ステップホイール装置」は、予め給水制限したマウスに水(報酬)を与えることで走らせる報酬系運動課題である。マウスは飲水するためにモーターで回転するホイール内の足場の動きに自身の四肢の動きを合わせて走る必要がある。今回、この装置を用いて回転速度を徐々に上げる加速走行課題を行い、どこまで速く走ることが出来るかを測定・評価した。この課題遂行に線条体のドーパミン受容体が関わるのか調べるため、①Tet-Offシステムによるドーパミン受容体D1Rのコンディショナルノックダウン(D1R cKD)マウス②線条体局所へのドーパミン受容体阻害薬投与マウス、の加速課題を実施した。 ①では、Doxの投与前、投与中、および投与後(投与中止から1週間後)において運動パフォーマンスを調べ、D1R発現の有無による影響を見た。結果、D1R発現が抑制された投与中でのみ有意な成績低下が認められ、D1Rが発現している投与前、および発現抑制の後に回復した状態である投与後では成績低下は認められなかった。②では、線条体へカテーテル留置手術を施し、対照(生食投与)群、D1R阻害剤投与群、D2R阻害剤投与群とで加速課題の成績を比較した。結果、D2R阻害剤では対照群と差がないのに対し、D1R阻害剤で有意な成績低下が認められた。これらの結果から、線条体D1Rがステップホイール加速課題での成績(より速く走る能力)に関与している事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では以下の①から④を並行して進めている。 ①報酬(モチベーション)と運動成績の関係性を定量化する行動実験系の確立を目指す。ステップホイール装置は、その回転速度やマウスの足場になる棒の配列を実験者が設定でき、運動負荷(速度や難易度)を制御出来る。今回、新たに給水制御装置を組み込む事で、給水の量・タイミングを制御し、報酬と運動パフォーマンスの関係性を明らかにするとともに、両者を定量可能な行動実験系の確立を試みて進めてきたが、本年度ではそこまでに至らず、今後の課題である。 ②報酬・運動課題における線条体D1Rの機能解析に関しては、実績概要に記載した通りD1R cKDマウスおよびDR阻害薬投与実験の結果が得られ、線条体D1Rの機能の一端が明らかになった。 ③線条体へ入力するドーパミン作動性神経(DAニューロン)の報酬系運動課題への関与を明らかにするため、光遺伝学的手技によりDAニューロンの活動を操作した時の運動課題への影響を調べる。本年度はその手技確立のための予備実験を行った。DAニューロンの起始核である黒質緻密部を標的としてウィルスを投与し、強制発現ベクターによるチャネルロドプシン2(ChR2)発現を調べ、投与部位や発現範囲などを確認出来た。 ④電気生理学的神経活動記録により、報酬-運動関連の神経細胞を探索している。現在、ステップホイール課題時の線条体神経活動記録を進めており、給水口へ接近する時、遠ざかる時、それぞれのタイミングで発火する神経細胞の再現性を確認出来た。
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今後の研究の推進方策 |
①光遺伝学手技による神経活動操作実験に関しては、ウィルス投与と光刺激用ファイバーを行い、様々なタイミングで光刺激した時のステップホイール課題への影響を調べる計画である。これに加えて、神経活動記録も行えるようにし、行動実験時に神経活動の操作と記録を同時に実施出来るような手技確立を目指す。現時点で、ファイバー留置、記録電極留置それぞれ単独では可能である。今後、光刺激用のファイバーと神経活動記録用電極を同時に埋め込むためには、電極用ヘッドステージにファイバーを組込む必要があり、また、これと同時に薬剤投与用のカテーテルも組み込みたいと考えている。これが可能となれば、例えば線条体直接路ニューロン(D1Rが選択的に発現)にChR2を発現させておき、D1R阻害薬投与時に直接路ニューロンを光刺激する事で、D1Rは機能阻害されているが直接路ニューロンは活性化している、という状況を作り出せ、その時の行動課題への影響を調べることで新たな知見が期待できる。このために、現在使用している電極用ヘッドステージの構造を大きく改良する必要がある。 ②報酬(モチベーション)と運動成績の関係性を定量化する行動実験系については、報酬および運動条件の検討を行って、データの再現性や妥当性を検証し、系の確立を目指す。 ③線条体神経活動記録に関しては、上記①の通り光遺伝学的手技や薬理実験と組み合わせる事を試みるのと並行して、活動記録単独でも推進し、データ数を増やす。さらに、運動条件を変えた場合に神経発火パターンが変化するかどうか、その特性をさらに詳細に探る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の実験計画から研究内容に関しては大きな変更はないが、取り組む順番に変更が生じたため。進捗状況次第であるが、計画とほぼ変わらない内容で次年度以降に使用する予定である。
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