本研究は、運動制御に関わる中脳-線条体ドーパミン(DA)神経回路の機能解明を目的とした。研究代表者らが開発・運用してきた独自のマウス運動解析装置「ステップホイール」は、給水制限したマウスに水を与える事で走らせる報酬系運動課題であり、飲水するためにマウスはモーターで回転するホイール内の足場の動きに自身の四肢の動きを合わせて走る必要がある。先行研究において、この課題によるDA受容体(DR)の遺伝子欠損(KO)マウスの運動機能を評価したところ、報酬系運動課題に特異的な成績低下が認められた。KOマウスはその標的遺伝子の発現を全身で欠損しているために、表現型の原因となる脳領域を限定出来ない。また時間的な点でも、生得的に欠損しているために発達期における神経回路形成への影響や代償作用等の可能性も考えられる。これらを克服するため、本研究では空間的・時間的に限定したDR機能の阻害方法として、(1)ドーパミン受容体D1Rのコンディショナルノックダウン(D1R cKD)マウス、(2)DR阻害薬の線条体への局所投与マウス、これら2つの系から運動課題評価をした。(1)のD1R cKDマウスはTet-Offシステムを利用しており、ドキシサイクリン投与の有無により可逆的に発現制御できる。結果、D1R発現を抑制させた時のみに成績低下が認められた。(2) では線条体にカテーテルを留置し、SCH23390(D1R阻害薬)、ハロペリドール(D2R阻害剤)、生理食塩水(対照)、それぞれを投与した時の運動成績を比較した。結果、対照群と比較してD2R阻害剤投与群では差がないのに対し、D1R阻害剤投与群で有意な成績低下が認められた。 (1)、(2)の結果から、線条体のDR機能を時間的・空間的に限定して阻害することで運動課題の成績低下が認められ、運動遂行時の線条体DA神経回路が運動制御に関与している事が示唆された。
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