本研究は「体育」概念の再定義を「生き方としての哲学」および「体育学概論」の計二つの着眼に基づいて行う3か年の研究プロジェクトである。研究成果については最終成果論文を『体育学研究』に2020年1月に投稿して6月中旬現在で「掲載可」であり(再投稿判定は査読者二人とも「掲載可」、但し数点の修正要求により現在「要修正」の判定)、今後の作業進捗を通じて掲載が見込まれている。以下ではこの最終成果論文の梗概について具体的に説明したい。 体育は「身体に関する教育」といった認識にもとづいて教育と研究が行われてきた。しかし学問としての「体育学」では教育とは直接に関わりを持たない「体育の研究」が往時から行われ、「体育学」に不可欠の位置を占めている。 こうした経緯より、最終成果論文では「身体教育」としての「体育」ではなく「体育学」における「体育」を再定義すべきであるとの根本的な視座転換が行われた。すなわち「学問」と(「生活への還元」という)「生き方」に関わる問題として「体育」の問い方を捉え直したと言える。。最終成果論文では問題の所在を以上のように定めたうえ、体育学を「人文科学」「社会科学」そして「医科学」に三分割する「体育学概論」を研究計画の公約通りに定め、『体育学研究』に記載された総説論文を全分野から集めて「体育」概念を再定義する議論を行った。結論的には、再定義された「体育」とは「人間の幸福における物質的ならびに社会的基盤づくりに貢献する身体運動の総称」と結論づけた。そして、当該知見がどこへと新たな研究の展望を拓くのか。体育学が「人間の幸福を身体面・社会面から身体運動に着眼して目指す学問」ならば体育学が目指す「幸福」の実質とは何であるのか。いわば「方法としての体育学」を新たな方法に据えることで「幸福」の実質をめぐる問題に新たな着眼から議論の提起が可能となったのである。
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