本研究は,筋肉の疲労状態を考慮した作業負荷予測が可能なデジタルヒューマンモデルを開発することを目的としている.本目的を達成するために以下に示す2つの課題に取り組み,英文誌への論文1報,国際会議での発表1件,国内学会での発表1件の研究成果があった. 本研究では,まず従来の筋骨格モデルでは考慮されていなかった冗長筋の機能を考慮した筋骨格モデルを提案した.冗長筋とは,関節を駆動する際に駆動方向を妨げる方向に働く筋肉のことであり,冗長筋の影響が考慮できていないと,推定される筋肉負荷は実際より小さく見積もられることが知られている.本研究では,主動筋と冗長筋を連結したばねで表現したモデルを新たに提案することで,冗長筋の影響を考慮した筋力推定手法を確立した.本モデルを屈曲・伸展といった2次元動作の解析だけでなく,旋回運動などの動作にも適応して,その妥当性の検証を行った.本内容は,国際会議および国内学会で発表し,現在英文誌への論文を提出して査読中となっている. 本研究では次に筋肉の疲労の程度を予測することが可能な筋の疲労・回復モデルを新たに提案した.本モデルの特徴は,これまで考慮できていなかった筋の速筋線維と遅筋線維の機能を考慮して,筋の疲労予測を可能にしたことである.速筋線維は大きな出力を発揮できる一方で疲労の進展が早く,遅筋線維は大きな出力を発揮することはできないが疲労の進展が遅いといった特徴を持っている.これらの機能を考慮しない場合では,予測した筋の疲労の程度と実際の疲労度合いに大きな差異があることが問題であったが,本研究ではこれらの課題を解決している.本内容は英文誌への論文がすでに掲載されている. 上記の2つの確立した技術を合わせて,モーションキャプチャした人の動作から筋肉の負荷を予測して,その時間変化から筋の疲労の程度を予測するアプリケーションを開発して,その妥当性の検証を行った.
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