研究課題/領域番号 |
17K17874
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
内山 直子 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (90738577)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラテンアメリカ / メキシコ / 経済 / 所得格差 |
研究実績の概要 |
2017年4月には博士論文及びその後の研究成果をまとめ、『Household Vulnerability and Conditional Cash Transfers: Consumption Smoothing Effects of PROGRESA-Oportunidades in Rural Mexico, 2003-2007』と題しSpringerBriefs in Economics: Kobe University Social Science Research Seriesの第1弾としてシュプリンガー社から出版した。出版から一年で書籍版に加え、出版社の統計によればオンライン上で延べ400ダウンロードを達成し、研究成果を広く世界に発信することができた。 また、国内向けには2018年7月の刊行を目指して『ラテンアメリカ所得格差論:歴史的起源・グローバル化・社会政策』(浜口伸明編、国際書院)において、担当の第3章「ラテンアメリカの所得格差と社会政策:条件付き現金給付は『世代間の貧困の罠』を断ち切れるのか」の原稿が既に最終段階にある。本書は国内のラテンアメリカ経済研究の第一人者と若手らによる21世紀の新たな成長段階に入ったラテンアメリカを所得格差という構造的問題から論じようとする、近年稀に見る意欲作となっており、21世紀のグローバル化時代の新しいラテンアメリカ経済に関する知見が広く共有されることが期待される。 一方、研究実施計画で予定していたメキシコ自動車産業に関してはアメリカのトランプ政権の誕生とともに、その動向が大きく変化する見込みであることから、基礎情報の収集に努め、現状を正確に把握しようとしているところである。加えて申請者が新しい大学に赴任したこともあり、具体的成果に結びついてはいないが、2018年度は新たにアジア経済研究所との研究会なども含め、進展が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度は新しい大学への赴任に伴い、息子と共に神戸から東京へと引越し、母子家庭となったため、新しい生活の立ち上げと同時に息子の転校および新しい環境に適応するためのサポートが必要であり、十分な研究時間を確保することが困難であった。また、それまでの学振特別研究員としての立場から常勤教員となった初年度であったため、全て一から授業準備が必要であったことに加え、演習や卒業論文指導など学生への対応にも時間を割く必要があったことも十分な研究時間が確保できなかった要因である。 この時間的制約の中、研究員時代の研究プロジェクト完了に伴う成果物の出版等が最終段階にあったため、こちらの処理を優先したことにより本研究課題の進捗に遅れが生じた。しかしながら、2018年度は新しい環境にも慣れ、一年目と比較して授業負担が軽減されることに加え、アジア経済研究所の外部委員として研究会に参加するなど、研究に比重をある程度戻すことが可能となったため、本研究課題の進展が大いに見込まれる。 同時に、本研究課題の申請時点でこの様な研究環境変化に伴うある程度の遅れを想定して4年間を想定しているので、最終的な研究目標の達成に支障はない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題計画調書の提出後の2017年1月にアメリカで大方の予想を覆す形でトランプ現大統領が就任して以来、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しが進むなど、本研究課題が取り扱うメキシコ自動車産業を取り巻く情勢はこの1年で大きく変化した。そのため、トランプ大統領就任以降のメキシコ経済および日系企業を中心とする自動車産業をめぐる情勢の正確な把握と現状分析が新たに必要となっている。今年度は先行研究および各種経済レポート、新聞記事などで最新の情報を収集すると共に、夏休み期間を利用してメキシコに現地調査に赴き、関係各機関から最新情勢についての聞き取り調査を行う予定である。それらの内容をもとに、年度後半では必要に応じて分析枠組みの修正を適宜行う予定である。 その後、2018年度終わりから次年度以降を目処に、上述の分析枠組みに基づき、メキシコ統計地理院(INEGI)が提供している製造業年次工業調査(Encuesta Anual Indstrial Manufacturera:EIAM)のための事業所パネルデータを用いた「生産性分析」を行う。その結果をもとに論文を仕上げ、国内外の学会で成果を発表すると共に、国際ジャーナルへの投稿を目指す予定である。 他方、2019年度(3年目)以降に向けて日系企業を中心としたメキシコにおける自動車産業を対象としたアンケート調査に向けての準備を開始する。具体的には経済産業省が行う海外事業活動基本調査や世界銀行のEnterprise Surveyの項目を参考にしつつ、上記のメキシコの生産性に関する理論及び仮説を実証するための代理変数となる項目を独自に追加する予定である。また、現在の勤務校と留学協定を結んでいるグアナファト大学の研究チームやグアダラハラ大学の日本研究センターとコンタクトを取り、共同研究の可能性を探る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績報告書の7.現在までの進捗状況に記載の通り、研究遂行のための十分な時間が確保できなかったことによる。2018年度以降は毎年の現地調査を計画していることから、2017年度の次年度使用額は海外旅費に充当する。また、所属機関の個人研究火が少額であることから、必要に応じて設備費や謝金等にも充当する予定である。
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