研究課題
レーザー駆動イオン加速では、高エネルギーかつ高品質なイオンビーム発生が課題とされているが、そのためには、加速メカニズムを明らかにすることが重要である。本研究では、イオンの加速メカニズム解明に貢献するため、高強度レーザーと物質の相互作用によって形成されるレーザープラズマの状態を現す一つの指標となるイオンの価数分布を、固体飛跡検出器CR-39によって明らかにすることを目的としている。2018年度は、神戸大学大学院海事科学研究科のタンデムバンデグラフ加速器において、前年度に構築したイオン照射体系を利用し、CR-39に対して水素及び酸素イオンの照射を行った。具体的には、加速器の0度方向のビームラインに、電場と磁場によってイオンを分光するトムソンパラボラシステムを設置し、その検出部にCR-39を用い、様々なエネルギーと価数の酸素イオンの照射を行った。また、参照のため水素イオンの照射も同マシンタイムにて行った。トムソンパラボラシステムでは、質量電荷比に応じて検出部でのイオンの入射位置が異なるため、あらかじめ軌道計算によって水素及び酸素イオンの価数ごとに入射する位置を求め、エッチング後のCR-39上に形成されたエッチピットの位置と比較した。また、エッチピット開口部を、光学顕微鏡を用いて観察し、エネルギーと価数に応じた形状の違いについて調べた。水素クラスターターゲットを用いたレーザー駆動イオン加速実験では、CR-39に加えて原子核乾板を使用したエネルギースペクトル計測を行い、両者の結果がおよそ一致したことにより、CR-39によるイオン計測の精度が十分であることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
タンデム加速器を用いた照射実験は、2018年度に構築した加速器0度方向のビームラインにおける照射体系を利用した。具体的には、タンデム加速器から加速された様々な価数の酸素イオン及び中性粒子をトムソンパラボラシステム内に同時入射させることによって、1枚のCR-39サンプル上に形成されるエッチピットを観察する。これにより、サンプル間の個体差やエッチング処理におけるわずかなパラメータの違いを考慮せずに、高精度な解析を行うことができる。当初、10日間のマシンタイムを取得する予定であったが、実際には5日間のみとなった。前年度の照射実験では、トムソンパラボラシステムのアライメントの不具合により、中性粒子を検出することができず、イオンの質量電荷比によって形成される二次曲線の原点が不明であったため、エッチピット位置から正確な価数とエネルギーを算出することが困難であった。そこで、今年度はアライメント手法を見直し、中性粒子の検出に成功した。これにより、入射位置からエネルギーと価数を判別することが可能となり、1~3価の酸素イオンが検出された。観察可能なエッチピットに対して、エッチピット径のエネルギーに対する校正曲線を得ることができた。価数の違いによるエッチピット径の違いについては、現在も解析を継続中である。一方で、量子科学技術研究開発機構関西光科学研究所において行う予定としていた、二酸化炭素クラスターターゲットを用いたレーザー駆動イオン加速実験は、水素クラスターターゲットを用いた実験となったため、本研究で開発するイオンの価数弁別手法は適用できなかった。そこで、今年度は、固体飛跡検出器CR-39に加え、原子核乾板を用いてレーザー加速プロトンの詳細なエネルギースペクトルを計測し、両者の結果がほぼ一致することから、これまでのCR-39を用いたイオン計測の精度を保証することができた。
2019年度は、タンデム加速器のマシンタイムを計15日間取得し、アライメント及びビーム電流量をコントロールすることで、CR-39上に形成される観察可能なエッチピット数を増やし、統計量を稼ぐことでより誤差の少ないデータを取得したいと考えている。また、加速器のターミナル電圧を細かく調整し、様々なエネルギーの酸素イオンを照射し、データベースの充実を図る。また、酸素イオンのみではなく、炭素イオンや金イオン等の他のイオン種についても同様の実験を行う。レーザー駆動イオン加速実験では、量子科学技術研究開発機構関西光科学研究所において行われる水素クラスターをターゲットとした実験に加え、グラフェンをターゲットとしたイオン加速実験に本手法を適用し、グラフェンに由来する炭素イオンと表面に付着している水に由来する酸素イオンのエネルギースペクトルを計測すると同時に、イオンの価数判別も行いたいと考えている。2018年度に、CR-39に対するレーザー光の影響を調べたところ、レーザー光が直接入射した際、イオンでは作り得ないいびつな形状をしたくぼみが現れ、エッチピットの解析に影響を及ぼすことが分かった。しかしながら、価数を特定するためには、電荷交換が起こるのを避けるため、CR-39の前面にフィルターを設置することができない。そこでCR-39の設置場所を工夫し、レーザー光やその散乱光が入射しにくい位置を選択し実験を行う。
タンデム加速器におけるマシンタイムが想定よりも短い期間となったため、加速器使用料として予定していた額に差が生じた。また、それに伴い、CR-39も購入しなかったため、次年度使用額が生じた。これについては、2019年度にタンデム加速器のマシンタイムを、当初計画よりも多めに取得するための経費とし、より詳細なデータ取得に努める。
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