研究課題/領域番号 |
17K17877
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
村上 善道 神戸大学, 経済経営研究所, 助教 (50709772)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 外国直接投資(FDI) / グローバル・バリューチェーン(GVC) / 生産性 / 所得格差 / ラテンアメリカ / 企業・事業所レベルデータ |
研究実績の概要 |
平成29年度は包括的な文献調査に基づくサーベイ論文の作成と、チリ製造業の事業所レベル個票データの整理とパネルデータ作成を中心に研究を始動した。主要な成果は以下の通りである。 1) 発展途上国・新興国における外国直接投資(FDI)の受け入れとグローバル・バリューチェーン(GVC)への統合が国内企業の生産性に与える影響に関して実証研究の包括的なサーベイを行い、両アプローチの統合を目指したサーベイ論文をディスカッションペーパー(Murakami and Otsuka 2017)として公表した。またその成果を日本国際経済学会の全国大会や神戸大学、アジア経済研究所などで行われたセミナーで英語で報告した。その上で、このサーベイ論文の結果に基づいた実証研究を行うため、チリ製造業の事業所レベル個票データ(ENIA)の整理を行い、1995年から2007年と2008年から2012年の2つの時期から成るパネルデータセットの作成を行い実証分析を開始した。 2) 2000年以降のラテンアメリカにおけるグローバル経済統合が「メキシコ・中米型」と「南米型」という二つのタイプがあることを明らかにし、査読付き論文(浜口・村上 2017)として公刊した。さらにこの二つのタイプにおける影響経路の違いに着目して、グローバル化が国内の所得格差に与える影響に関して実証研究の包括的なサーベイを行った論文を浜口編(2018)の分担執筆の担当章として作成した。またその成果を神戸大学で企画した国際セミナーで英語で報告した。 3) グローバル経済への統合に伴い、ブラジルのような資源豊富な新興国には中国やインドのようなアジアの新興国とは経済成長の決定要因に明確な違いがあることを明らかにした論文(水野・村上・佐藤 2018)を公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は本年度において①GVC統合と生産性、②グローバル経済統合と所得格差というという本研究の中心となる2つの研究課題それぞれに関して包括的な文献調査を行い、当初の計画通り、サーベイ論文を作成することができたことを重要な成果としてあげることができる。 ①に関しては研究代表者が外部委員として参加するアジア経済研究所の研究会「技術移転と産業発展の長期的展開過程:インドとタイにおけるオートバイ産業と自動車産業の比較事例研究」との共同成果として作成した英語共著論文を国際学術誌へ投稿した結果、好意的な評価を含む査読コメントを受け取ることができ、その査読コメントをもとに書き改めた改定稿を既に投稿済みである。 ②に関してもサーベイ論文を日本語著書の担当章として執筆しただけでなく、その内容を発展させた英語論文を研究代表者が研究分担者として参加する基盤研究B「ラテンアメリカ発展停滞のパズル」との共催で企画した国際セミナーで報告した。討論を依頼したこのテーマに精通するコスタリカ人研究者からも好意的な評価と建設的なコメントを得ることができたのは大きな成果であった。 今後の実証研究を進めていく上で不可欠なチリ製造業の事業所レベル個票データに関しても、学生研究支援員として雇用した優秀な大学院生2名の働きもあり、予測以上のスピードでデータの整理とパネルデータの作成、さらのそれをもとにした記述統計の確認や企業レベルの生産性の暫定的な推定も行うことができた。 さらに、本研究課題と関連した2件の共著論文(1件は査読付き)を公刊することができたことも成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
前述の①に関するサーベイ論文を評価の高い国際学術誌に掲載できるように全力を尽くす。また②に関するサーベイ論文を英文ディスカッションペーパーとして公表し、こちらも評価の高い国際学術誌に投稿して掲載を目指す予定である。 パネルデータの作成が完成したチリ製造業の事業所レベルデータを用いて、本格的な実証分析を行う予定である。研究計画に従い、各事業所の外資比率や技術レベル、中間財の輸入比率、また当該事業所の属する産業の外資比率、GVCへの参加比率、関税率、貿易開放度と、当該事業所の生産性や事業所内の技能・非技能労働者間の賃金格差の関係に関する分析を行う。この過程で、特に説明変数に関するデータセットの作成などに関して、研究者代表者がこれまで行ってきたチリの家計調査データを用いた研究の成果も最大限利用して実証研究を進める。これらの結果を英文ディスカッションペーパーとして作成・公表し、国際学術誌に投稿する予定である。 また平成29年度に引き続き、基盤研究B「ラテンアメリカ発展停滞のパズル」やアジア経済研究所の研究会「技術移転と産業発展の長期的展開過程:インドとタイにおけるオートバイ産業と自動車産業の比較事例研究」の研究成果とも連携して研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会(Latin American and Caribbean Economic Association)への出席と研究報告ができなかったため、その旅費を利用して概ね同額が見込まれる翻訳サービス(「ラテンアメリカにおけるグローバル化と所得格差の関係―「メキシコ・中米型」と「南米型」にみる影響経路の違い」の翻訳)を利用したが、計画していた旅費と翻訳サービス費用の違いにより差異が生じた。 差額に関しては僅かであるので、平成30年度の少額物品費の購入にあてる予定である。
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