研究課題/領域番号 |
17K17885
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
武藤 愛 奈良先端科学技術大学院大学, データ駆動型サイエンス創造センター, 助教 (80730506)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 新規代謝経路 / システム生物学 / 代謝パスウェイ / 遺伝的相互作用 / 合成致死 / 接合伝達 / 遺伝子欠失株ライブラリ |
研究実績の概要 |
大腸菌は、その遺伝子工学的有用性から、分子生物学の基本原理の解明に最も貢献したモデル生物である。細胞の代謝系についても最もよく調べられた生物の一つであることから、近年、代謝モデル構築のターゲットとしても注目されており、現在までにiJO1366(Orth et al., 2011)をはじめとした優れた代謝モデルが多数構築されている。これらのモデル開発の目指すところは、有用化合物の生産や有害物質の分解などに最適化された代謝系のデザイン及び合成生物学への応用である。この代謝系の最適化において障害となるのが、未知の代謝経路の存在である。 本研究は大腸菌の遺伝子欠失株ライブラリKeio collection(Baba et. al., 2006)を用い、二重遺伝子欠失株の網羅的作製によって遺伝子間の合成致死性(単独での遺伝子欠失では致死とならないが、他の遺伝子の欠失が共存すると致死性を示す性質)を網羅的に検出することによる、未知代謝経路のゲノムワイド探索を目的とする。これまでに、大腸菌の有用機能の一つである、細胞内のDNAを他の細胞内に伝達することのできる接合伝達機能(Mori et. al.,2015)を利用することで、32万株の二重遺伝子遺伝子欠失株をハイスループットに構築した。また、その最小培地における生育測定結果から遺伝子間の合成致死性を検出し、未知代謝経路の候補となる遺伝子を絞り込んだ。 平成31年度(令和元年度)は、この成果の論文発表に向け、最小培地での二重欠失株生育度測定データの検証と、問題点の原因究明を行なった。その結果、接合伝達による二重欠失株の構築における培地の影響に関する新たな知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに得られている最小培地での二重欠失株生育度測定データの解析結果から、 (1)最小培地特異的に起こる遺伝子座特異的二重遺伝子欠失株作製効率の低下、及び(2)最小培地において生育しない単一欠失株の多くが、二重欠失株作製後では生育する、の2点が明らかになった。本研究の成果を発表するにあたりこの問題の究明が必要であったため、平成31年度(令和元年度)は論文の作成と並行してこれらの原因究明に当たった。 本研究で使用したM9最小培地においては細胞の生育が遅いため、栄養培地での実験よりも生育時間を長く設定していた。(1)について検討した結果、ゲノムに組み込んだ接合伝達起点を変えた場合、二重遺伝子欠失株作製効率の低下は常に接合伝達起点から200kb以内の遺伝子座にある遺伝子の欠失株において起こっていた。このことから、伝達起点に近い遺伝子領域は他の部分に比べ相同組み替えの頻度が高いことと生育時間の長さの効果により、Keio collection側の遺伝子欠失領域が組み変わってしまうことによって薬剤耐性遺伝子が失われ、二重遺伝子欠失株作製効率の低下が生じているのではないかと考えた。(2)については、栄養培地からの栄養分の持ち込みを疑い検証実験を行なったが、Keio株を栄養培地から最小培地へ植え継いでも生育しないことから、持ち込みが原因ではないことが明らかになった。また、二重欠失株作製後に生育が観られる頻度は、同一代謝系路上の遺伝子で類似していた。本研究では薬剤による選択を最小培地上で行なっていたことから、薬剤耐性遺伝子の有無と最小培地における遺伝子の必須性の両者に同時に選択圧がかかったこと及びより長い生育時間を与えたことにより、細胞の淘汰によって生育株が生じている可能性が示唆された。これらの検証を行ったことにより、当初の計画よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度はこれまでに得られている遺伝子間の合成致死情報、代謝経路の論理的再構築の結果、及び新規代謝経路候補遺伝子について論文にまとめ、学術誌に投稿する予定である。昨年度に検証を行なった問題点についても論文に含め、大腸菌の接合伝達を用いた遺伝子操作手法開発の研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年度(令和元年度)は国際・国内学会での発表のための旅費・参加費、及び消耗品に予算を使用した。得られた結果の検討過程において追加の検証事項が生じたため、論文の投稿準備に予定していたよりも時間がかかり、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、英文校正及び論文投稿費用に使用する予定である。
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