研究課題/領域番号 |
17K17888
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
道見 康弘 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (50576717)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | リチウム二次電池 / ケイ素負極 / イオン液体 / 体積膨張 / リンドープ / ガスデポジション電極 |
研究実績の概要 |
リチウム二次電池用ケイ素 (Si)負極がリチウム (Li)と合金化 (充電)するとLi15Si4相が形成され,Siの体積は元の約4倍にまで膨張し応力が発生する.これによりひずみが蓄積され活物質層が崩壊するため,乏しいサイクル安定性しか示さない.ある種のイオン液体電解液中において充電容量を1000 mA h g-1に規制してSi単独電極の充放電試験を実施したところ,優れたサイクル寿命が得られることをこれまでに見出してきた.この性能向上のメカニズムを解明するために,上述の条件下においてサイクル数にともなうSi単独電極の膜厚の変化を走査型電子顕微鏡により調べた.その結果,イオン液体電解液中では長期サイクルにわたり体積膨張が大きく抑制されることを明らかにした.また,微分容量プロットの解析結果からLi15Si4相の生成が抑えられることも明らかにした.他方,有機電解液中ではイオン液体電解液中と比較して約1/6のサイクル寿命しか示さず,比較的早い段階から体積の膨張が確認された.以上の結果から,イオン液体電解液中ではSiがLiと均一に合金化するためLi15Si4相が生成されにくく体積膨張も抑制されると考えられる,その結果,電極崩壊が抑えられサイクル寿命が向上したと推察される. リンをドープしたSiからなる電極 (P-doped Si電極)を用いた場合では,さらに長期のサイクルにわたり体積膨張が抑えられ,それに応じてサイクル寿命も向上することを見出した.また,P-doped Si電極のLi拡散係数はSi単独電極のそれと比較して約1桁向上することも明らかにした.したがって,PドープによりSiとLiとの合金化反応がより均一に進行するようになったため,P-doped Si電極のサイクル寿命が向上と考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ケイ化物 (シリサイド)とSiとのコンポジット電極の反応解析を進める中で,ある種のイオン液体電解液中におけるシリサイド単独電極の充放電挙動が有機電解液中におけるそれとは全く異なるという興味深い結果が得られた.すなわち有機電解液中では低い容量しか得られないものの,イオン液体電解液中では比較的高い容量を安定して維持する優れたサイクル性能が得られた.シリサイド単独電極の反応挙動の解明はシリサイド/Siコンポジット電極の性能を向上させるうえで貴重な情報となる.そこで,ある種のイオン液体電解液中において種々のシリサイド単独電極のLi吸蔵-放出特性を調べた.その結果,ケイ素と化合物化させる遷移金属の種類により可逆容量が異なることも見出した.計算化学の結果から,シリサイドの構成金属とLiとの親和性が高いほど高容量が得られると推察される.このように研究を進める中で新たな展開に繋がる結果が得られていることから「当初の計画以上に展開している」と判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
イオン液体電解液中におけるシリサイド単独電極の反応解析を進める.具体的には軟X線発光分析によりシリサイドとLiとの反応部位の分布を調べる.イオン液体電解液の違いがシリサイド単独電極の性能におよぼす影響を明らかにするとともに,得られた知見をシリサイド/Siコンポジット電極の性能向上にフィードバックする.また,充放電反応にともなうシリサイド/Siコンポジットの組織の変化を透過型電子顕微鏡により観察し,コンポジット電極の劣化メカニズムを解明する糸口とする.さらに,Siへのドープ元素およびその濃度の違いが反応挙動におよぼす影響も種々の分析により明らかにしていく予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定には無かったイオン液体電解液中におけるシリサイド単独電極のLi吸蔵-放出特性を調べていたため,消耗品の一部を購入せず約20万円の次年度使用額が生じた. 現在用いているイオン液体電解液が種々のシリサイド電極に最適であるとは限らないため,今後は様々なイオン液体電解液を用いて充放電試験を行う予定である.この電解液を調製するために次年度使用額を充てる予定である.
|