ケイ素 (Si)は高い理論容量を有することからリチウム二次電池用負極活物質として大変魅力的であるが,リチウム (Li)との合金化にともない大きく体積膨張し応力が発生する.これによりひずみが蓄積され活物質層が崩壊するため通常の有機電解液中では乏しいサイクル安定性しか示さない.これまでにある種のイオン液体電解液をSi単独電極に適用したところ,有機電解液中と比較してサイクル寿命が6倍以上も向上することを見出してきた.それでも数百サイクル程であるため,電気自動車をこれまで以上に普及させていくためには,より長寿命とすることが必要不可欠である.Si系負極のさらなる性能向上を目指して,イオン液体電解液中におけるSi活物質層中のLi濃度分布を調べることにより電極反応挙動の解明を試みた.軟X線発光分光法 (SXES)はLiの存在を確認しながらその分布も調べることが出来るため,Si負極のLiとの反応挙動を分析するうえで極めて有効な手法である.SXEスペクトルの詳細な解析の結果,Si活物質層内の上部,すなわち電解液側および層の中間ではLi比率の高いLi-Si合金相 (Li-rich相)が形成されていることが明らかとなった.他方,集電体側ではLi比率の低いLi-Si合金相 (Li-poor相)が形成されていた. Siの乏しいサイクル性能を改善するために遷移金属と化合物化させると (シリサイド),Siの高容量の魅力が失われてしまう.ところが,それは一般的な有機電解液中の場合であり,ある種のイオン液体電解液中で評価したところ,予想外の高容量を安定して維持する優れたサイクル性能が得られた.電解液の違いが反応挙動におよぼす影響を調べたところ,イオン液体電解液中では厚さの均一な被膜が活物質表面に形成されLiは一様に吸蔵され,局所に応力が集中することなく電極崩壊が抑えられたため優れた性能が得られたと結論した.
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