平成29年度には統計画像解析によってラット視床及び被殻において,死後に顕著なMRI信号変化が生じることを特定していた。そこで平成30年度は,安楽死させたラット脳切片に対し種々の金属検出を目的とした病理染色を行い,死後脳MRIにおける信号変化との関連性について検討した。まず,死後の血液脳関門の破綻による血中鉄成分の脳実質への拡散を調べる目的で,ベルリンブルー染色による鉄成分の検出を試みた。しかしながら,脳切片内にて顕著な鉄成分は認められず,MRI信号強度に影響を与える因子として,死後脳実質への血中鉄成分の沈着は関連性が小さいと思われた。また,死後のMRI信号変化を誘導する他の因子として,虚血状態によって産生される金属含有酵素であるsuperoxide dismutase(SOD)の発現変化を免疫染色によって検討した。しかしながら,SODに関しても顕著な発現が認められず,MRI信号に変化を及ぼす因子としての関連性は低いと思われた。 死後の組織は染色性が著しく低下し,これは免疫染色において特に顕著になる。そのため,死後組織の染色に適した染色プロトコルの改善等が必要と判断され,現在,最適な染色条件を検討している。しかしながら死後長時間が経過した脳組織が解析対象であるため,染色性の劇的な改善は期待できないと思われた。そこで今後,死後に顕著なMRI信号変化を認めた脳組織を採取し,原子吸光光度法等の代替手段によって死後脳組織内の金属変化量について検討を進めることとした。
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