研究課題
本研究の目的は、転写因子機能を有するMMP3(マトリックスメタロプロテアーゼ3)により発現誘導される新規の癌転移マーカーの探索である。申請者らは独自の発想で、転移性の異なる3種類の細胞株を用いて網羅的遺伝子発現解析を行い,全MMP遺伝子ファミリーメンバーのmRNA発現レベルについて調べ、急速転移性細胞株LuM1においてMMP3 mRNAの発現が著しく高いことを明らかにした。さらに、LuM1が有する細胞増殖能・浸潤能・転移能をMMP3が促進していることをloss/gain of function解析両面から解明した。また、腫瘍におけるMMP3の細胞内局在を調べるために共焦点顕微鏡及び免疫組織化学法を用い、LuM1皮下移植により形成された腫瘍辺縁及び間質における核内MMP3の発現を明らかにした。さらに、MMP3のタンパク質ドメインのうち、プロテアーゼ活性を持たないPEXドメインの核内局在と強制発現系における細胞増殖能・遊走能の上昇について世界で初めて明らかにした。すなわち、がん細胞の増殖,浸潤,転移における、核内MMP3およびそのPEXドメインの新機能を明らかにした(Okusha Y, et al, J Cell Biochem. 2018)。この成果に加え、近年、癌周囲組織および遠隔臓器へ様々な影響を及ぼすことが報告されている細胞外小胞(Extracellular Vesicle, EV)についても検討し、LuM1のEV中には、高濃度のMMP3が含有されていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
H30年度は、転移性の異なる大腸がん細胞株Colon26 / LuM1 / NM11モデルにおいて、MMP3のloss/gain of function両面から解析を行い、がん細胞の増殖,浸潤と転移における核内MMP3およびそのPEXドメインの新機能を報告できたため、本研究は当初の予定通りに遂行できていると言える。本年度の実験計画としては、①CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によるMMP3ノックアウト細胞株の樹立およびそれに伴う遺伝子群の発現変動解析、②MMP3の下流で制御を受ける遺伝子についてのloss/gain of function解析、③MMP3の細胞内移行機構の解明を予定している。現在までにMMP3ノックアウト細胞株の樹立を行い、MMP3の下流で制御される遺伝子について解析を進めている。また、LuM1のEVおよび培養上清可溶画分中にはColon26と比較して高濃度のMMP3が含有されていることから、MMP3の核内移行機構を明らかにするために、MMP3陽性EVおよびMMP3含有培養上清をMMP3遺伝子欠失細胞に添加し、標識したEVの細胞内局在およびMMP3の核内移行機構を共焦点レーザー顕微鏡およびアレイスキャンにて解析を行う予定である。
今後の研究は、癌転移性におけるMMP3の役割を明らかにし、MMP3により発現誘導される新規の癌転移マーカーを探索するものである。具体的には、1) MMP3のloss/gain of functionにより、MMP3により制御される遺伝子を確定する。2) MMP3により発現誘導される遺伝子のプロモーター領域を組み込んだ蛍光レポーターコンストラクトを遺伝子導入し、クローニングにより安定株を樹立する。同安定株を用いて、in vitro 浸潤能ならびにin vivo 転移能の解析を行う。3) ヒト頭頸部癌において他の癌種と比較してMMP3高発現が認められることから、ヒト頭頸部癌細胞株パネル (Kozaki K, et al, Cancer Res, 2008) を用いて、MMP3により発現誘導される遺伝子の発現レベルと癌悪性度との相関性を明らかにする。4) MMP3陽性EVの細胞内取り込み機構および細胞内局在を明らかにする。
次年度は論文投稿を控えているため、論文投稿料、印刷代を考慮している。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 3件)
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