本研究課題は,「忘れられる」権利概念の日本法における意義と射程を,フランス法・EU法を比較対象としつつ明らかにすることを目的とする。 研究期間後半は,新型コロナウイルス感染症の影響により,文献検討を中心とせざるを得なかったが,令和3年度までに,フランス法・EU法を比較対象として,死後の「忘れられる」権利や,未成年の際に収集された情報に関する「忘れられる」権利といった,フランス法が独自に/EU法よりも拡大して保護を認めている権利について検討を加えた。これらの検討から,フランス法が,「所有権」「所有者」とは言わないものの,個人データの「処分」を,データ主体にかなり広範囲に認めようとする姿勢を見出した。また,その間,日本においても,平成29年にGoogleの検索結果の削除請求に関する最高裁決定が出たため,その検討を行った。 令和4年度においては,Twitterのツイートの削除請求に関する最高裁判決が6月に出たため,その検討を行った。最高裁は,平成29年決定と比べて,基準を削除請求を認める方向に緩和しており,それは検索エンジンかSNSかの違いによると考えられるものの,あてはめや補足意見からは,より一般的に,削除請求に対する厳格な姿勢を緩和する方向性が見出されるのではないかとの示唆を得た。また,その検討に際して,検索エンジンにおける検索結果の削除に関してフランス国務院が示す基準との比較を行った。フランス法においては,第1に,問題の情報がセンシティブ情報か否かの差が利益衡量の枠組みそれ自体に影響すること,第2に,問題の情報へのアクセスの容易さが検索結果の削除請求を認める方向に傾くこと,第3に,本人自身が問題の情報を公開した場合にあっても削除請求の余地が認められることが明らかになった。これらの点や,SNS上の情報の削除請求に対するフランス法の姿勢については,引き続き検討を加えたい。
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