研究実績の概要 |
哺乳類の性は、Y染色体上に存在する性決定遺伝子Sryの有無により遺伝的に決定されるとされてきた。申請者の研究室では、哺乳類の性決定には、正しい時期に必要な量のSryを厳密に発現するためのエピゲノム制御が重要であることを示した(Miyawaki et al., Curr Top Dev Biol 2019, Kuroki et al., Science 2013)。 哺乳類の性は、Y染色体の有無により先天的に決まると考えられており、後天的な「環境」の影響は考慮されてこなかった。一般的に、エピゲノムは「環境」と「遺伝子」をつなぐメカニズムであるとされる。性決定を制御するエピゲノムが明らかになったことにより、遺伝的な性決定に加えて、新たに「環境」が性決定の要因となると申請者は考えた。申請者は、哺乳類の性決定における「環境」は母体であると考え、母親の栄養状態が「胎仔生殖腺の代謝」を制御し、エピゲノムを介して性を決定すると仮説を立てた。 ヒストンの脱メチル化酵素であるJMJD1Aを欠損したマウスは、Y染色体を持つにもかかわらず、完全な性転換および部分的な性転換である半陰陽が混在する。つまり、Jmjd1a欠損マウスは雌雄への分化が拮抗しており、環境要員を選別するツールとして有用である。種々の条件を検証した結果、妊娠中の母親に飼料Bを与えたマウスは100%の割合で性転換を生じることを見いだした。母体の栄養を受容する胎仔の代謝経路を明らかにするために、遺伝子発現解析を実施し、生殖腺体細胞で高発現する17個の代謝関連遺伝子を同定した。CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集により17個の代謝関連遺伝子のノックアウトマウスを作製し、脂肪酸代謝の律速酵素を欠損したマウスがJmjd1a欠損マウスの性転換効率を上昇させることを見出した。今後、代謝変化とSryの関係をエピゲノム動態の観点から解析する。
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