令和元年度の研究においては、平成29年度および平成30年度研究を土台にして、欧州裁判所2015年判決および、これを受けたドイツ環境・権利救済法の展開に関する論文を公表した。特に、欧州裁判所2015年判決は、環境・権利救済法における排除効の規定を欧州法違反としたことから、ドイツ環境法上の団体訴訟の特徴の1つであった排除効を放棄させるものであり、今後のわが国における団体訴訟の制度設計論にも少なからず影響を与えると考えている。なぜなら、ドイツ環境法上の団体訴訟の展開が欧州のスタンダードとは言えない状況に置かれつつあり、そのような中、わが国はドイツ行政法を参考・参照してきたからである。 他方で、これら一連の研究を経て、申請者は、ドイツにおける行政上の権利保護の歴史的展開にも関心を持つことに至り、この点を踏まえて原告適格についての司法による法の継続形成の可能性を探りたいと考えた。つまり、ドイツにおける行政上の権利保護の歴史的展開を再検証することを通じて、ドイツにおいて環境法上の団体訴訟を受け入れる法的基盤ないし理論的基盤があったのかどうかを探ることが、本研究および環境法上の団体訴訟研究に欠かすことができないと考えた。したがって、令和元年度においては、ドイツにおける行政上の権利保護の歴史的展開に関する文献の収集および、文献の精読に努めた。 したがって、本補助事業および各年度の研究によって、現行法システムの動向を踏まえるだけではなく、その前提として、過去の法システム・議論動向を踏まえる必要性に至った。そのため、環境法上の団体訴訟制度を引き続き研究テーマとし、少しでもその全容に少しでも近づくよう尽力し、わが国への議論に還元していきたいと考えている。
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