研究課題/領域番号 |
17K17929
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
佐伯 法学 愛媛大学, 学術支援センター, 助教 (80791607)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 関節リウマチ / Uhrf1 / 滑膜線維芽細胞 / 滑膜マクロファージ |
研究実績の概要 |
本研究は,関節リウマチにおけるエピゲノム制御因子Uhrf1の働きを解明し,新規治療法の手がかりを探索することを目的として研究を進めている。H29年度の研究は以下のin vivoとin vitro実験を遂行した。 関節炎モデルマウスとしてCAIAマウスとK/BxN血清移入関節炎マウスの作製を確立し、免疫組織化学染色より関節炎組織においてUhrf1は少なくとも滑膜細胞(滑膜線維芽細胞と滑膜マクロファージ)に発現することを明らかにした。また、滑膜細胞のUhrf1発現が関節炎病態に及ぼす影響を調べる目的でUhrf1fl/fl・Col6a1-Creマウス(滑膜線維芽細胞特異的Uhrf1欠損マウス)とUhrf1fl/fl・LysM-Creマウス(マクロファージ特異的Uhrf1欠損マウス)を作出し関節炎を誘導した。対象(Uhrf1fl/flマウス)と比較してUhrf1fl/fl・Col6a1-Creマウスは肉眼的および組織学的に顕著に病態が悪化していることが判明した。 In vitro実験を実施するため滑膜細胞の初代培養を試みた。CAIAマウスの関節炎組織から細胞を採取し基質への接着性を利用して形態的に線維芽細胞様とマクロファージ様の細胞を分離した。各滑膜細胞の分子マーカーのmRNA発現をqPCRで検討した結果、得られた細胞は滑膜線維芽細胞と滑膜マクロファージであると判断された。また、得られた初代滑膜細胞のUhrf1 mRNA発現をqPCRで調べたところ、初代滑膜細胞はともにUhrf1 mRNAを発現すること、滑膜線維芽細胞のUhrf1 mRNA はTNFαで有意に上昇しIL17で有意に低下すること、滑膜マクロファージのUhrf1 mRNA はTNFα、CSF2、RANKLで有意に上昇することが判明した。 以上より、Uhrf1は関節炎のネガティブフィードバック機構に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのin vitroとin vivo実験において計画した実験をほぼ遂行できており、それぞれ結果が得られている。特に滑膜細胞の初代培養に成功したこととUhrf1fl/fl・Col6a1-Creマウスを用いたin vivo実験で病態の表現形に明確な差が認められたことは研究成果として大きく今後の研究展開に期待ができる。一方で、Uhrf1fl/fl・LysM-Creマウスについてはまだ個体数が確保できておらず今後も解析を進める必要がある。当初の研究計画とは異なりヒトの臨床サンプルを用いた研究も計画しておりIRBの申請を通し解析を開始した段階である。 以上より、全体としての研究の進捗状況は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は、Uhrf1fl/fl・LysM-Creマウスで関節炎病態に影響が認められるか解析を進めるとともにUhrf1の詳細な分子機構を明らかにする。さらに、マウスで得られた結果がヒトの関節リウマチでも認められるか検討する。 H29年度までの結果から滑膜線維芽細胞のUhrf1は関節炎のネガティブフィードバック機構に関与することが示唆されている。治療標的分子を探索するためにはUhrf1の発現調節機構を明らかにする必要がある。ChIP-Atrus (http://chip-atlas.org/) のChIP-seqやDNase-seqのデータベースからUhrf1の発現調節に関わる転写因子やその結合部位を予測し、培養細胞を用いたプロモーターアッセイを実施して検証しUhrf1発現に関与する転写因子を同定する。また、Uhrf1は複数の機能ドメインをもち,H3K9me2/3の認識,DNAメチル化など遺伝子発現制御に関与していることが知られている。Uhrf1を欠損した初代滑膜細胞を用いてUhrf1の標的遺伝子を探索する。当該施設内の次世代シーケンサーを用いて,①RNA-seqによる遺伝子発現プロファイリング,②H3K9me2/3に対するクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq),③メチル化DNAシーケンス(MeDIP-seq)を行い,ゲノムワイドデータの統合解析を行う。解析結果から複数の候補因子を同定し, siRNAを用いた遺伝子発現抑制を行い細胞活性化機構に影響があるか検討し機能評価を行う。 関節リウマチと変形性関節症の患者から得られた滑膜組織を用いて組織学的にあるいは初代滑膜細胞を用いて実験を行う。総括として関節リウマチ病態におけるUhrf1の分子基盤を明確にし,いずれかの分子が治療のシーズ分子となるか評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は研究成果が比較的順調に得られており当初予定していた使用金額よりも少なく済んだために次年度使用額が生じた。H30年度には多額の資金を要するゲノムワイドデータ解析を多数計画しているためその実施費用に繰越し分を割り当てる。あるいは当初計画していなかった臨床サンプルを使用した研究を新たに計画しているためその分に割り当てる。
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