本研究では、高効率な近赤外発光を示すことが明らかになってきた局所化学修飾カーボンナノチューブ(lf-SWNT)において、化学修飾サイトの構造デザインという独自アプローチをもとに近赤外発光の波長設計や動的な波長変換機能を創出するための方法論の開拓を行った。 H30年度は、動的な波長変換機能を創出するための分子設計を検討した。アザクラウンエーテル構造をもつ修飾分子を使って合成したlf-SWNTは、銀イオンの濃度に応じて発光波長が変化する挙動を示した。さらに本材料は水溶液のpHによっても波長変化を誘導することが可能であった。特に、その応答性は銀イオンとpHで異なっており、刺激の違い(相互作用の違い)に応じた多様な発光波長変化を示し、従来材料では見出されていなかった特性が発現することを明らかにした。また、lf-SWNTの修飾サイト上にアルデヒド基を導入することによって、種々のアミン誘導体が結合(イミン結合形成)することを駆動力として、発光波長の長波長化や短波長化などの多様な変化を導くことに成功した。さらに、このイミン結合が動的共有結合である点を利用した結合の解離反応や交換反応に加え、さらなる化学反応(カバチニック・フィールズ反応)によって波長変化を誘導できた。lf-SWNTの波長変換はこれまで二波長のスイッチングのみに限られていたが、修飾サイトを化学反応の反応場とする本系の開拓によって、多段階に発光波長を変調できる新システムの構築に成功した。この他にも、溶媒の違いによるlf-SWNTの発光波長変化の特異性に関する知見を得ており、新たな物性の開拓が期待される。 以上の成果をもとに新規の近赤外発光性ナノ材料を創出することで、レアメタル不要な近赤外光源や高性能イメージング技術の開発など種々の応用分野への貢献が期待される。
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