研究課題/領域番号 |
17K17935
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
元松 祐馬 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (20746870)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ネクロプトーシス / 遅発性対麻痺 / 大動脈 |
研究実績の概要 |
本研究ではウサギ一過性脊髄虚血モデルを用いて、遅発性対麻痺にネクロプトーシスが関与しているかどうかを検討した。 遅発性対麻痺は大動脈手術後に起こる合併症であり、一旦発症すると患者QOLを著しく損なうものである。これまでアポトーシスやオートファジーの関与が報告されているが、いまだその機序は不明である。一方、近年新たな細胞死の形態としてプログラムされたネクローシス、ネクロプトーシスという細胞死が報告されている。虚血再灌流障害など種々の疾患に関与していることが報告されており、さらに阻害剤の開発もすすんでいる。これらを鑑み、遅発性対麻痺へのネクロプトーシスの関与が明らかになれば、治療法開発につながるのではないかと考えた。 今回の研究では以前から用いられているウサギ一過性脊髄虚血モデルと脊髄冷却モデルを使用した。単純虚血群では術直後は後脚機能が保持されるものの、時間経過とともに後脚機能が低下し遅発性対麻痺を起こしているものと考えられた。一方脊髄冷却群においては後脚機能の低下は見られなかった。HE染色では脊髄虚血群では術後経過中に脊髄前角の運動神経細胞数が漸減していた。またウエスタンブロット法を行い、単純虚血群でネクロプトーシスの実行蛋白質であるRIPK1、RIPK3の発現が増強していることを確認した。これらの免疫染色法にて、これらの蛋白質が運動神経細胞の細胞質内に発現しており、またネクロプトーシス阻害蛋白質であるcIAP1/2と共発現していることが確認された。cIAP1/2は単純虚血群で発現が増強しており、虚血などへのストレス応答の一環と考えられた。 今回の結果より、遅発性対麻痺にはネクロプトーシスが関与しており、冷却によりその発現が減弱することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で脊髄虚血後にRIPK1、RIPK3というネクロプトーシス実行蛋白質が発現することを確認でき、遅発性対麻痺にネクロプトーシスが関与していることを明らかにできた。阻害蛋白質と言われているcIAP1/2が単純虚血群で発現が増強し脊髄冷却群で発現していないことから、この蛋白質はストレス応答に関与したものだと思われるが、まだ詳細な検討が必要と思われる。 今後はその他の蛋白質の検討、阻害剤投与モデルの検討を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
近年ではネクロプトーシス発症の基準の一つとして、RIPK3に加えIPK1、RIPK3の下流で働くMLKLという蛋白質の発現があることが重要となってきており、上記にもあるように、今後はまずMLKLの関与を同モデルで検討していく。さらには細胞死がアポトーシスとなるか、ネクロプトーシスとなるか、このスイッチの役割を担うと考えられているCaspase-8の発現も検討を進めていく。 またNecrostatin-1を初めとした阻害剤投与モデルで、これらの蛋白質の発現の推移を評価したいと考えている。今後の治療法開発のためには阻害剤の投与量などの検討も必要であろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
(未使用が生じた理由) 予定よりも消耗品の支出が少なく済んだため、次年度使用額が生じた。 (次年度使用計画) 平成29年度経費の中で617,506円の未使用分があり、これを次年度に繰り越し、30年度は合わせて2,017,506円を消耗品費を中心に使用して研究を実施する予定である。
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