研究課題/領域番号 |
17K17938
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高井 信吾 九州大学, 歯学研究院, 助教 (30760475)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オルガノイド / 味覚 / インスリン / 味細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は味細胞におけるインスリンシグナルの役割を解明することである。昨年度、マウス味覚器にインスリンレセプターのmRNAおよびタンパク質が強く発現していることを明らかにした。本年度は、味細胞幹細胞3次元培養系である「taste bud organoid」を用いて、味細胞の前駆細胞の分化・増殖におけるインスリンの影響を検証した。本研究ではインスリンを含まない調整培地を新たに調合し、そこに様々な濃度のインスリンを添加してその中でorganoidを3週間培養した。その結果、培地中のインスリン濃度依存的に、味細胞を含むオルガノイドコロニー数の減少、また、各種味細胞マーカー(nucleoside triphosphate diphosphohydrolase-2:I型味細胞、Tas1R3、gustducin:II型味細胞、carbonic anhydrase 4:III型味細胞)のmRNA発現量が有意に減少することが明らかとなった。GLUT8やSGLT1といったグルコーストランスポーターのmRNA発現も同様にインスリン濃度依存的に減少した。さらに、インスリンを含む様々な成長因子、栄養因子によって活性化され、細胞分裂や生存などの調節に関わることが知られるセリン・スレオニンキナーゼ「mammalian target of rapamycin(mTOR)」を薬理学的に阻害すると、前述のインスリンによる味細胞数減少は抑制され、コロニー中に含まれる味細胞の有意な増加が認められた。以上の結果から、血液中のインスリンは末梢の味細胞に発現するインスリンレセプターを介して直接作用し、下流のmTOR経路を活性化することで味細胞の分化/増殖を調節している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織学的実験、3次元培養を用いた実験に関してデータが出揃ってきており、おおむね順調に進展していると考えられる。また、本研究結果の一部は第60回歯科基礎医学会学術大会 アップデートシンポジウム4 「若手の口腔生理学研究最前線」(2018年9月5日、福岡)、日本味と匂学会第52回大会(2018年10月31日、大宮)、FAOPS2019(2019年3月29日、神戸)で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、味細胞幹細胞の3次元培養系である「taste bud organoid」を用いて、培地中のインスリン濃度依存的に、味細胞を含むオルガノイドコロニー数の減少、各種味細胞マーカーmRNA発現量が有意に低下することを確認した。この結果から、肥満や糖尿病といった高インスリン血症を引き起こす病態では、味細胞の分化・増殖が正常に行われなくなる可能性が示唆される。事実、糖尿病患者、また肥満者で味覚障害が起こるという臨床報告は多数あり、今回の発見はこの病態発症メカニズムを裏付けるデータとなるかもしれない。また、mammalian target of rapamycin(mTOR)経路を阻害剤であるラパマイシンを培地中に添加することで、オルガノイドコロニー中に含まれる味細胞数、各種味細胞マーカーmRNA発現量の有意な増加が認められた。この結果は、糖尿病や肥満に伴う味覚障害の新たな治療ターゲットとしてmTORシグナリングが浮上する可能性がある。今後は、高インスリン血症を示すマウス(db/dbマウスなど)または正常型マウスにラパマイシンの投与を行い、in vivoでmTORシグナリングを阻害した場合、味細胞の分化・増殖にどのような影響があるのかを探索する。得られた研究結果は味と匂学会、歯科基礎医学会、生理学会等の学会で積極的に発表していく予定である。また、本年度中にこれまでに得られた研究結果をまとめて、論文として学術誌に投稿することを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:試薬が予想より安く購入出来たため。 使用計画:概ね順調に進んでいるので適宜執行する。
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