昨年度までに、マウス味覚器におけるインスリンレセプターのmRNAおよびタンパク質の発現、さらに、味細胞幹細胞3次元培養系である「taste bud organoid」を用いて、高濃度のインスリンが味細胞の分化・増殖に対して抑制的に働くことを見出してきた。高濃度のインスリンを含む培地で味蕾幹細胞を培養し、3週間後にできたコロニーを詳細に分析した結果、インスリンを含まない培地で培養したオルガノイドと比して味細胞を含むオルガノイドコロニー数が減少していること、また、コロニー中の各種味細胞マーカー(nucleoside triphosphate diphosphohydrolase-2:I型味細胞、Tas1R3、gustducin:II型味細胞、carbonic anhydrase 4:III型味細胞)のmRNA発現量が有意に減少することが明らかとなった。この効果は培地中のインスリン濃度依存的であった。また、この培地にインスリンよって活性化さるセリン・スレオニンキナーゼであるmTOR(mechanistic target of rapamycin)の阻害剤であるラパマイシンを添加することで前述の味細胞増殖に対するインスリンの効果が打ち消されることを発見した。以上の結果は日本味と匂学会第53回大会、The 18th International Symposium on Molecular and Neural Mechanisms of Taste and Olfactory Perception等で発表した。また得られた結果は学術論文としてまとめ、科学誌Plos Oneに発表した。また、高インスリン血症が引き金となる味覚障害の可能性について調査し、Current Oral Health Reportsにまとめて発表した。
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