研究課題/領域番号 |
17K17939
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古賀 康士 九州大学, 記録資料館, 助教 (50552709)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 捕鯨史 / 比較史 / 組織 / 制度 / 資源動員 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、国内・海外の資料所蔵機関での現地調査と文献調査を中心に行った。国内については、これまで実施してきた捕鯨関係史料の調査の継続とデータ分析を重点を置いた。主な調査内容は次の通りである。 (1)国内調査 (a)松浦史料博物館において平戸藩「御家老日記」の調査・撮影を行った。平戸藩領では平戸・壱岐・五島列島などの島嶼部に捕鯨史料が残されているが、年代的な偏りもあり、藩領全体の動向を探ることは難しい。「御家老日記」は捕鯨史関係を含め、藩内の事蹟が幅広く記載されており、平戸藩における鯨組の出漁状況などを通時的に捉えることができる好史料である。(b)室戸市民図書館において捕鯨史料の調査・撮影を行った。本年度は室戸市教育委員会が所蔵する捕鯨史料の撮影がほぼ完了した。(c)九州大学において捕鯨史料の調査を行い、唐津藩の小川島捕鯨関係史料や平戸捕鯨会社記録といった新たな史料を確認し、平戸捕鯨会社記録については仮目録を大学紀要で発表した。 (2)海外調査 (a)ノルウェーにおいて国立公文書館(オスロ分館・トロムソ分館)とヴェストフォルト文書館などで捕鯨史料の所在状況を調査した。またサンデフィヨルド捕鯨博物館の見学のほか、かつての捕鯨地の実地調査を行うことができた。これにより日本の在来捕鯨業を比較史的に位置づける上で有益な知見を得た。(b)アメリカについては、本研究の遂行状況などを勘案して、ハワイで現地調査を実施した。19世紀中期のハワイは太平洋の代表的な捕鯨船寄港地となっており、在来捕鯨業を検討する上で重要な対象地域となる。本調査ではハワイ州立文書館などで史料調査と文献調査を行った。 これらの史料調査に並行して、地域漁業学会第59回大会(於大東文化大学)などで本研究の成果を報告するとともに、西海捕鯨業の漁場秩序に関する論文1本を学術誌に投稿している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請計画とはいくつか違いが生じているが、予期しなかった成果も挙がっており、総合的にはおおむね順調に進展していると評価できる。 申請時に調査を予定していた対馬藩の宗家文庫については、長崎県立対馬歴史民俗資料館の一時休館(平成29年4月より約2ヶ年)により、現地調査の実施が困難となった。それに代わり、平成29年度は松浦史料博物館にて平戸藩「御家老日記」の調査・撮影を集中的に行うことができた。「御家老日記」は100年弱に及ぶ大部な史料ではあるが、平成29年度の調査で半分程度の調査が進めることができた。これにより、データ分析を含めて次年度までに一定の成果を挙げる見込みが立った。 また当該年度は、九州大学や長崎県内(個人蔵)において新たな史料の存在を確認できた。これらの史料によって新たな分析視角から在来捕鯨業の検討を進めることが可能となり、本研究による大きな成果の一つと評価できる。これらの史料については目録化や翻刻を行い、成果を広く社会・学会に還元することにしたい。 収集した史料の分析については、現地調査に較べて若干進展の遅れが見られるが、想定の範囲内に収まっている。今後、的確な分析計画を立案し直すことで、遅れを取り戻すことが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き国内・海外の資料所蔵機関での現地調査と文献調査を進めるとともに、平成30年度は調査報告書・史料集の形で研究成果の公開を予定している。 国内・海外の資料調査については、報告書などの作成に向けた調査を中心に実施する。国内については、これまで現地調査を進めてきた三重県・和歌山県・高知県・山口県・長崎県などで追加的な調査を予定している。このほか、北海道・東京都などで補足的な調査が必要となる可能性がある。 海外については、アメリカ東海岸(ニュー・ベッドフォードなど)のほか、初期ヨーロッパ捕鯨史と日本関係の捕鯨史料の調査のため、オランダ(国立公文書館・ライデン大学など)とバスク地方を候補地として考えている。海外の調査地については研究の進展状況を見究め、最適な場所を選定する。 研究成果の公開については、調査報告書と一次史料を翻刻した史料集を計画している。調査報告書については、主要な捕鯨地の捕鯨史料の所在状況をまとめた「在来捕鯨関係史料所在一覧」のほか、新出の史料群を中心した史料目録などを収載することにしたい。また史料集については、西海捕鯨業の「中小鯨組」の経営実態を伝える小値賀島・大阪屋文書などの翻刻を予定している。これらは日本の在来捕鯨業の基礎データとなり、将来的に関連分野における共有財産となるであろう。 このほか、平成30年度においても学会・研究会での成果報告や学会誌への論文投稿を行い、積極的に成果の発表・公開を進めていきたい。
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