2018年度は2017年度に引き続き、ヒラメ人工飼育稚魚を供試魚として実験を行った。まず、ヒラメ稚魚に、同種他個体がカサゴまたはイシガニに捕食される様子を観察させた。これらの処理を施した「カサゴ経験個体」、「イシガニ経験個体」と「未経験個体」を捕食者がいない水槽に移し、摂餌時の離底行動を測定し、処理区間で比較を行った。 カサゴ経験個体はイシガニ経験個体および未経験個体に比べて離底回数が少なく、離底時間が短く、一離底あたりに複数回アタックする割合が小さくなった。カサゴは海底で身を潜め、近くに来た餌生物を捕食するため、ヒラメ人工種苗は離底行動を控えるとともに俊敏な離底行動をとる方が生残しやすいのかもしれない。よって、ヒラメ稚魚は、カサゴの捕食圧を経験することにより、カサゴに捕食されにくいように離底行動を変化させたと考えられる。 一方で、イシガニ経験個体では、多くの行動要素が未経験個体と大きく変わらず、着底時の姿勢においてのみ、カサゴ経験個体および未経験個体より頭を上に向けながら着底する頻度が高くなった。イシガニは、底周辺の餌生物をにおいで探索するため、ヒラメ人工種苗は底周辺にいると被食の危険が高まるため、上方へ離底していた方が生残しやすいのかもしれない。これが、多くの行動要素が未経験個体と変わらないことと、上方を向き続けながら着底するという行動に結びついたのかもしれない。 以上より、異なる捕食者を経験することにより、異なる方向に離底行動が変化することが分かった。放流後のヒラメ人工種苗は独自の捕食様式を持つ複数の捕食者に直面する。そのため、放流前に一種のみの捕食者を経験させるだけでは放流後の生残率を上げる施策としては不十分であると考えられる。事前に放流海域に存在する複数の捕食者を特定し、それらを経験させる施策が必要かもしれない。
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