研究課題/領域番号 |
17K17951
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
山口 真弘 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 助教 (60736338)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 越境大気汚染 / 粒子状物質 / 乾性沈着 / 森林 |
研究実績の概要 |
本研究では、越境大気汚染が深刻な地域に生育する樹木の葉に沈着した粒子状物質 (PM) の量と組成の継時的変化およびその樹種間差異を調べることにより、いつ頃、どのような成分のPMが樹木の葉に沈着して影響を及ぼしうるのか、そしてどの樹種が影響を受けやすいのかを明らかにすることを目的としている。 2017年度においては、越境大気汚染が深刻な地域として長崎県を選定し、その郊外の山岳地域に生育する常緑針葉樹ヒノキを対象樹種としてその葉面PM沈着量およびその組成の継時的変化を調べた。その結果、葉面PM沈着量は春先に最も高く、その後減少した。PMの発生源を推定するために葉面に沈着したPMの金属組成を調べた結果、主要元素は土壌などの自然由来と考えられるK、Ca、NaおよびMgであったが、人為起源と考えられるPb、As、VおよびNiも含まれており、いずれも春先にそれらの沈着量が最も多かった。葉面に沈着したPbの同位体比を調べた結果、中国の石炭や鉛鉱石中のPb同位体比と同じか近い値であった。また、ヒノキの葉面におけるPbとZnの沈着量比は、中国で観測されている大気中のPMに含まれるPbとZnの濃度比と近い値であった。さらに、葉面PM沈着量が多かった春先は調査対象地周辺の微小粒子状物質 (PM2.5) 濃度が高く、その期間の後方流跡線解析を行った結果、中国大陸から長崎に気塊が輸送されていたことが明らかになった。これらの結果から、偏西風によって中国大陸から長崎への気塊の輸送が顕著な春先において、中国から越境輸送されたPMが長崎の山岳地域に生育するヒノキの葉に沈着している実態を明らかにすることができた。 現在、これらの成果を論文としてまとめてSCIE掲載誌 (Journal of Agricultural Meteorology) に投稿し、Major revisionの査読結果を受け、改訂中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017度に長崎の山岳地域に生育する常緑針葉樹ヒノキの葉に沈着した粒子状物質 (PM) 量と組成を継時的に測定することにより、春先にPMが葉面に沈着しやすく、それらは中国大陸から越境輸送されてきたことが示された。この成果を原著論文として取りまとめて学術誌に投稿中という点を考慮すると、進捗状況としては概ね順調であると考えられる。しかし、本研究の目的の一つとして、PMの葉面沈着量の樹種間差異を明らかにすることがある。2017年度はヒノキのみを研究対象としていたことから、この点においての進捗状況は思わしくない。また、調査対象地周辺の微小粒子状物質 (PM2.5) 濃度のデータは、2017年度においては長崎県が常時測定して公表しているデータを利用したが、本研究計画ではこれを独自に測定する予定にしている。これらの点を考慮すると、進捗状況としては (3) やや遅れている、の区分に相当すると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画どおり、今後も引き続きヒノキの葉に沈着した粒子状物質 (PM) の量と組成を測定していく。これに加えて、本研究の目的の一つである葉面PM沈着量の樹種間差異の解明に向けて、常緑針葉樹であるヒノキに加えて常緑広葉樹であるクスノキを対象とした同様の測定を行う予定である。なお、当初の研究計画では調査対象とする常緑広葉樹としてスダジイおよびウラジロガシを予定していたが、樹冠からの葉の採取の難しさや葉の採取に関わる事務手続きなどの事情から、代表者が所属する大学構内に生育するクスノキを調査対象樹種とした。また、葉面PM沈着量とその金属組成の継時的測定に加え、調査対象地域周辺の大気中のPM濃度およびその金属組成の測定も並行して行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に今年度の研究成果の取りまとめとして原著論文を執筆しその英文校正にかかる予算を確保していたが、論文の単語数の関係で少し割安となり、次年度使用額が生じた。次年度は今年度と同様の測定に加えて対象樹種を増やして測定を行うことになるため、次年度使用額をその測定費用に充てる予定である。
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