研究課題
本研究は,うつ病臨床における研究成果と臨床現場の乖離を埋めるべく,うつ病の多様な病態を,「うつからの回避的な認知・行動パターン」によって分類・整理し,それらに応じた具体的,実践的な治療・対応指針を策定し,その効果検証や普及を行うことを目的としている。H29年度は,これまでのうつ病臨床で指摘されている多様なうつ病およびうつ状態の臨床像の抽出・整理を行うべく,文献研究を行った。その結果,操作的診断基準に明記される病態に加えて,問題解決の先送り,不安・焦燥感の生起,他者に対する依存や攻撃など,自己のうつ感情や問題から回避する考え方や行動パターンが認められた。また,従来から指摘されるように,自己の抑うつ感情について考え込んだり(反すう),問題を完全にコントロールしようとする奮闘,他者との接触を断つなどの孤立など,自己の抑うつ感情を強める考え方や行動パターンも確認された。さらに,こうした反応パターンの取りようは,個人の特性(気質・性格傾向)や病態の重症度,うつ病エピソードの回数によっても異なる可能性が窺えた。こうした文献研究の成果を踏まえ,臨床背景(年齢,性別,職業,既往歴など),個人特性(気質),うつ症状(重症度),そしてうつ症状に対する回避的な認知・行動反応パターンを測定する質問紙を用いた大規模調査を実施する準備を進めた。各構成概念を測定し得る質問紙を選定し,調査方法の整備,倫理審査申請の準備を終えた。
3: やや遅れている
H29年度中に大規模調査の開始を予定していたが,文献研究を含めた測定概念の抽出・整理に時間を要した結果,調査開始が遅れている。しかし,調査研究の手法として,web調査を行う準備ができたため,次年度(H30年度)前半には,調査研究の成果をまとめられると考えている。以上より,「やや遅れている」と判断した。
今後は,web調査を用いた大規模調査研究を行い,一般成人および精神科受診患者における多様なうつ病,うつ状態の分類・再整理を試みる。具体的には,同じ症状(うつ状態)を呈していても,臨床背景や個人特性(気質)によって,うつ状態に対してどのような認知・行動反応パターンを示すのか,構造方程式モデリングを用いて,症状の悪化・改善のプロセスをモデル化する。得られたモデルに基づき,臨床背景や個人特性に応じた治療・ケアのための指針(ガイドライン)を作成する予定である。その後,患者および精神科医師を対象にインタビューを行い,ガイドラインの内容や有効性の観点から評価を行ってもらう。最後に,作成・評価されたガイドラインについて,普及・啓発活動を行うことを計画している。なお,当機関は,年間約120例のうつ病エピソードを呈する者が新規患者として来院しており,サンプルサイズの確保やインタビュー調査の協力者候補は,十分であると考えている。また,地域の基幹病院として,平時より多数の精神科医師との連携・協働体制があり,治療者を対象としたインタビュー調査を行う場合も,協力者候補は,十分である。
H29年度中に大規模調査(web調査)を行えなかったため,調査にかかる経費(web調査費用,データ入力補助者への謝金=人件費)および解析のための経費(統計解析ソフト)が次年度に繰り越しとなった。この分は,H30年度に使用予定である。
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BMC Health Services Research
巻: 17 ページ: 126 (9 pages)
10.1186/s12913-017-2071-0
Current Psychology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1007/s12144-017-9569-9