研究課題
統合失調症は、妄想や幻覚症状を示す代表的な精神障害である。統合失調症の原因として、神経細胞自体やドーパミン、セロトニンといった神経伝達物質の異常が考えられているが、最近、統合失調症において、血機能関門構成分子であるclaudin-5(CLDN5)のSNPの存在が報告されている。しかしながら、統合失調症において、CLDN5の発現や局在が変化しているかどうかについては不明である。そこで代表者は、CLDN5に着目し、血液脳関門が統合失調症の病態に関与しているかどうかを、ヒト統合失調症死後脳を用いて明らかにすることを目的として研究を行った。正常ヒト死後脳と統合失調症死後脳からmRNAを採取し、quantitive PCR法によって、CLDN5遺伝子発現を調べた結果、CLDN5は統合失調症の病態に関与する前頭前野領域で顕著な上昇が認められた。一方、統合失調症の病態に関与しない後頭野領域では、変化は認めなかった。次に、免疫組織染色を行った。CLDN5は脳において血管内皮細胞にのみ発現が認められ、正常では連続性の染色像であったが、統合失調症では不連続な染色像を示すことが分かった。さらに、免疫染色した標本の画像解析によりCLDN5の定量化を行った。血管内皮マーカーの免疫染色結果から、正常脳と統合失調症脳では血管の数や面積に差はないことが分かった。一方で、CLDN5陽性面積は統合失調症の前頭前野で有意に減少し、後頭野では変化がないことが明らかとなった。これらの結果から、統合失調症では血液脳関門のバリア機能に異常を来し、病態に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
死後脳を用いた研究では順調に進展したが、血液脳関門の機能性との解析が進んでいない。これは、保存状態がマッチした正常脳と統合失調脳のサンプル数が少ないためであり、取集を進めている。また、脳微小血管培養モデルの構築を進めているが、ヒト初代脳微小血管内皮細胞とヒト脳周皮細胞株での共培養は短期的な血管管腔構造を取る一方で、長期的にはシュリンクし、長期的な解析が出来ないことが判明したため、解析が進んでいない。
本研究により、統合失調症では血液脳関門構成分子CLDN5の減少により、血液脳関門のバリア機能に異常を来し、病態に関与していることが示唆された。しかしながら、統合失調症においてCLDN5が減少するメカニズムについては不明である。CLDN5に関わるシグナル分子については、PKAが関与していることを代表者所属研究室で明らかにしている。そこで、今後はPKAに着目し、正常と統合失調症死後脳を用いて、PKAの活性化状態などを調べる予定である。また、実際に統合失調症脳において、血管からの漏出が認められるかは明らかではない。正常と統合失調症死後脳を用いて、IgGやフィブリノーゲンに対する免疫染色を行い、脳実質側への漏出を検討する。更に、統合失調症病態に関与するとされるドーパンミンやセロトニンなどのモノアミンがCLDN5減少に関与しているかを明らかにするため、ヒト脳微小血管培養モデルの構築を進める。これにより、統合失調症においてCLDN5が減少するメカニズムの解明や統合失調症病態との関連性を明確にする。ヒト脳微小血管培養モデルでは長期的な培養法の作製には至っていない。ヒト初代脳微小血管内皮細胞とヒト脳周皮細胞株、アストロサイトの3種共培養や、血管成長因子VEGFの添加、マトリゲル以外の基底膜分子の検討を行い、脳微小血管培養モデルの構築を進める予定である。
本研究課題の成果をOncotarget誌に論文投稿を行ったが、その投稿、掲載料が40万円以上と高額であった。そのため、研究継続に使用する当該年度の研究費が不足した。そこで、前倒し申請を行ったが、振り込まれた時期が本年1月であったため当該年度中には全額を使用できなかったため。残額については、次年度の研究計画に則り、適切に使用する。
すべて 2017 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 備考 (1件)
Oncotarget
巻: 16 ページ: 93382-93391
10.18632/oncotarget.21850
http://www.fmu.ac.jp/home/p2/index.html