統合失調症は遺伝・環境要因によって発症すると考えられているが、その病態は依然不明である。22q11.2欠失症候群では統合失調症の罹患リスクが20倍にも跳ね上がることが知られているが、欠失する遺伝子群の中には血液脳関門BBBの代表的構成分子であるclaudin-5 (CLDN5)の遺伝子が含まれている。代表者はこの点に着目し、統合失調症の罹患部位である前頭前野においてCLDN5の陽性シグナルが有意に減少・途絶していることを見出した。所属研究室では以前、脳微小血管内皮細胞のCLDN5のT207がprotein kinase A (PKA)によってリン酸化されると、CLDN5が分解され低分子に対する内皮バリアが破綻することを報告した。そこでPKAの関与を検討した結果、正常脳に比べ統合失調症の前頭前野では活性化PKA陽性微小血管領域が有意に増加し、不連続なCLDN5シグナルとしばしば共局在を示すことが明らかになった。一方微小血管数・密度については、正常脳と統合失調症脳で差は認められなかった。 次に、前頭前野の活動性や統合失調症の認知機能改善に関与するセロトニン (5-HT)に焦点を当てた。その結果、5-HT1A受容体が正常前頭前野微小血管周囲に発現し、周皮細胞マーカーと共局在することを発見した。そこで『神経終末から放出される5-HTは5-HT1A受容体を発現する周皮細胞を介してBBB機能を維持・増強している』という仮説を立てた。脳微小血管・周皮細胞共培養系を用いた検討では、CLDN5シグナルの強度と連続性が5-HTによって増強し、5-HT阻害剤によってリバースされること明らかになった。
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