研究課題/領域番号 |
17K17999
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
小柳 喬 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (20535041)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 芳香族アミン / ドーパミン / 微生物代謝 / 腸内細菌 / アミノ酸脱炭酸酵素 / 腸内代謝物 |
研究実績の概要 |
腸内細菌優勢種のうちGAM培地で培養可能な 32 種について、芳香族アミノ酸ドーパからドーパミンへの変換能を精査した。各芳香族アミノ酸(チロシン・フェニルアラニン・トリプトファン)各 1 mMに加えて 1 mM ドーパを含む培地で各菌を培養した際に、ドーパミンを著量生産できる菌種はEnterococcus faecalis のみに限られることが明らかとなり、本菌種の腸管内におけるドーパミン産生への高い寄与が窺われた。また、ドーパからドーパミンへの変換率は 1 %以下と極めてわずかながらも、Ruminococcus gnavus にも産生能がみられた。ゲノム情報より本菌種が芳香族アミノ酸脱炭酸酵素を有するか調べたところ、トリプトファンを主要基質とする脱炭酸酵素として既に報告済みの酵素が 1 つ見出されたため、本酵素がドーパミン生産に関わっている可能性が高いと考えられた。また、E. faecalis についてはチロシンに特異性の高い芳香族アミノ酸脱炭酸酵素 (TYDC) が存在することが古くから知られており、本菌種の TYDC 欠損株においてドーパミン生産能も消失することから、この酵素が本菌種の強いドーパミン生成能を担っていることが確認された。このように、ヒト腸内共生細菌の優勢種のうちドーパミン生成を行えるのは一部の菌種のみであり、その生成の基盤は芳香族アミノ酸脱炭酸酵素により担われていることが強く示唆された。また、Enterococcus 属等の乳酸菌が有する芳香族アミノ酸脱炭酸酵素群は、他の細菌や動植物の酵素とアミノ酸配列の相同性が低く、ドーパへの高い反応性などもこのようなタンパク質の構造の違いに起因する可能性もあると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画の大きな目的の一つである、いずれのヒト腸内共生細菌が芳香族アミン、特にドーパミンの生成を担うかという課題において、菌種を特定することに成功したことは、大きな成果と言える。また、特定した菌種の中で活性の強弱についても確認でき、Enterococcus 属が主要な生成菌であることが示唆されたことにより、腸管内において本乳酸菌が担う重要な生理的意義の一つを明らかにできたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
腸内細菌が生成するドーパミンやその他の芳香族アミンが及ぼす他の腸内細菌への影響、および宿主に与える影響(免疫系への作用や炎症緩和など)を精査していくことが必要となるため、その準備を進めていく。また、初年度に得られた成果をさらに深める目的で、各菌の芳香族アミノ酸脱炭酸酵素の大腸菌組換え体を使用して、芳香族アミン生成能を酵素レベルでさらに精査する必要もあると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の遂行において消耗品費(高速液体クロマトグラフィー用試薬、微生物培養用試薬等)を予定よりも節約できたため、また、1年目に予定していたDNAマイクロアレイ解析に向けた外注費用を使用する段階まで至らなかったため購入物品予算に余裕が生じ、残額の 81571円を次年度使用額とすることとした。次年度は、本額を次年度使用額と合一して、微生物培養用試薬、高速液体クロマトグラフィー用試薬、および遺伝子実験関連試薬類等に充当する予定である。
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