オルニチン由来アルカロイドであるヒヨスチアミン(トロピノン類縁体)やニコチンは中枢・自律神経系に作用し、重要な医薬品や嗜好品の主要成分として利用されている。しかし、これは植物に特異な代謝産物であり、その微生物生産が達成されていなかった。そこで本研究ではそれらの共通中間体であるN-メチル-Δ1-ピロリニウムカチオン (N-mpyr)とトロピノンの微生物生産を目指した。 大腸菌を宿主として、タバコ由来プトレシンN-メチル基転移酵素(PMT)と大腸菌由来プトレシンアミノ基転移酵素 (YgjG)を共発現することで、N-mpyrの微生物生産を達成した。また、その生産培地にグルコースを添加することで、N-mpyrの生産量を約8倍増加させることを明らかにした。さらに、プトレシンの異化代謝経路中のγ-アミノブチルアルデヒド脱水素酵素(YdcW)とγ-グルタミル-γ-アミノブチルアルデヒド脱水素酵素(PuuC)がN-mpyrを酸化し、N-メチル-γ-アミノ酪酸へと変換することを明らかにした。培養中のN-mpyrの消費を抑えるために、それらの二重破壊株を宿主として用いて、PMTとYgjGを共発現することで、N-mpyrの増産を達成した。 トロピノンの生合成に関与する酵素として、トマト由来CHSBがマロニル-CoAを基質として3-オキソグルタル酸を合成する酵素であることを明らかにした。またITC分析を行うことにより、CHSBがN-mpyrを認識しないことを強く示唆できた。 N-mpyr 生産系に、CHSB、ベラドンナ由来CYP82M3、ミヤコグサ由来CYP還元酵素を共発現させることで47.0 μg/Lのトロピノンの微生物生産を達成した。この際、CYP82M3を大腸菌内で機能させるためには、そのコドン構成が重要であることが示唆された。
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