本研究は建築・デザインにおけるモダン・ムーヴメントの日本への導入過程を教育機関の成り立ちを通じて探る試みである. モダン・ムーヴメントの国内における展開として,申請者の研究の出発点ともなっている分離派建築会に関してシンポジウムを続行している.最終年度ではこのシンポジウムにて1本の発表を行い,その内容を2年前の発表とともに出版に向けて準備中である.さらに,国際会議においても,分離派建築会の論敵と当時みなされていた者について発表した.セルビアで行われたこの会議の際には,同国における近代建築の展開についても実際に確認することができた.さらにベオグラード大学建築学部を中心として継続的に活動が続いている美学研究の一端を,会議中の展示や頒布された雑誌などを通じて確認し(拙論もその一環に加えられた),グローバル環境下でのモダン・ムーヴメントを捉える一助となっている.建築学部における美学研究という姿は,日本には見られない研究・教育体制としても注目された. Eisenmanの博士論文の翻訳についても作業中であるが,現象学的考察とモダン・ムーヴメントにおける歴史記述との相互作用をとらえる上での一例と位置付けられる.さらに,前年度に浮上した装飾というテーマとモダン・ムーヴメントの関係についても,現在翻訳を進めているMark Wigleyの著書が有用である.この著書自体が,現象学的考察と歴史記述の関係を追ったものであり,本研究における先行例とみなせる. 以上の研究において獲得した知見を,日本建築学会のウェブ討論,英国で出版された百科事典の項目執筆,さらには社会学の研究者を中心にした論集における鼎談への参加などで,社会に公開している.
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