脊椎アライメントの概念を導入した新たな腸腰筋機能解剖という研究課題に対して、腸腰筋が注目されるきっかけとなった側方進入椎体間固定術(LLIF)において、手術により腸腰筋が本来の位置に近い後方に移動することにより、腸腰筋は脊椎の良好なアライメントを維持し、安定化させる本来の機能を果たすことができる可能性を明らかとした。また、安全なLLIF手技の確立も本研究の目的のひとつであり、LLIFに関連して脊柱変形矯正手術に際して仙腸関節を貫くスクリュー(S2-Alar-Iliac screw;S2AIscrew)について骨盤のパラメータであるPelvic Incidence(PI)、Pelvic Tilt(PT)が大きい症例では仙腸関節は矢状面に対して前方の開きが小さくS2AI screwは刺入しやすい傾向があることを明らかとした。さらに、LLIFケージは前方に設置した方が、より良好な脊椎アライメントが得られることを明らかとした。また、上記LLIFと従来から広く行われている後方進入椎体間固定術(PLIF)を比較し、LLIFの方が前弯形成、椎間板高増大効果は良好であるが、術後1年での骨癒合や矯正損失には注意が必要であることを明らかとした。また、脊柱変形矯正手術後の成績不良の一因であるPJK(Proximal Junctional Kyphosis)の原因として、術前に固定上位端の脊椎前傾角が大きい症例は、術直後には良好な脊椎アライメントに矯正されても、術後経過により、再度脊椎が前傾していってしまう傾向にあることを明らかにした。腸腰筋機能が低下して姿勢異常が重度の症例では、手術で矯正してもそれを維持することが困難である可能性が示唆された。最終年度では、動的な姿勢評価による検討も加え、腸腰筋機能を改善することにより健康な脊椎を維持し健康寿命を延長する研究を継続中である。
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