研究課題/領域番号 |
17K18005
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
加藤 晋 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (90551250)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 慢性肺疾患 / 肺胞形成 / 前駆体蛋白変換酵素 |
研究実績の概要 |
未熟児の慢性肺疾患の病態を解明すべく、培養細胞と新規の3次元肺培養モデルを用いた研究を開始した。 本年度は3次元肺培養で作成した切片の評価、高濃度酸素暴露による慢性肺疾患モデルマウスにおける前駆体蛋白変換酵素の発現変化の解析を進めた。光学顕微鏡を用いた形態学的評価法の確立をすすめながら、培養肺や慢性肺疾患モデルマウスにおける肺胞発達の評価を行った。 形態学的評価では、P10で作成した慢性肺疾患モデルマウス肺で、肺胞構造の単純化と数の減少を確認した。培養切片においては、P4から開始し4日間の培養後、すなわちP4+4の切片において、P8でマウスから作成した切片と比較して二次肺胞隔壁形成がやや低下する様子が見受けられたが、肺胞化自体は進んでいることが確認できた。組織染色では、Ⅱ型肺胞上皮細胞や前駆体蛋白変換酵素のfurinの発現減少が認められた。肺検体をもちいた遺伝子と蛋白の発現評価では、furinの高濃度酸素暴露による発現低下と、基質蛋白の一種であるIGFI-Rの発現低下が確認できた。すなわち、慢性肺疾患において、前駆体蛋白変換酵素の発現減少が肺胞形成に寄与する栄養因子の発現減少を引き起こし、結果として肺胞形成が低下するとする仮説を支持するものと考えられた。 この知見は、多因子が関わるとされる慢性肺疾患発症の詳細なメカニズムの解明へつながるものである。さらに新たな治療手段や薬物療法の開発をもたらしうる。患児や家族のQOLの向上だけでなく、医療的・経済的・社会的資源の節約にもつながるなど波及効果が大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は①培養細胞を用いた解析と②3次元肺培養モデルを用いた解析を予定していた。 不死化培養細胞株を用いた実験は、Dr.Robertsとのディスカッションにおいて、蛋白発現の不安定さに関する指摘があり、実験の優先順位を大幅に下げることとし、まずは広く行われている高濃度酸素暴露によるマウスモデルと培養肺切片による評価系を用いた検討を優先することとした。組織切片の固定、染色には、本学病理学教室の支援を受けており、安定した切片作成、組織染色の結果を得ることができている。核酸や蛋白の発現検出は、抽出条件の設定も含めて順調に進めることができた。
3次元肺培養モデルでは入手できる試薬やコラーゲンマトリクスの種類が従前に計画していたものと異なっていたため、系の最適化に時間を要したが、組織学的評価も含めて確立できた。高濃度暴露による慢性肺疾患モデルマウスにおいては、前駆体蛋白変換酵素のfurinやその基質における発現の低下を確認することができ、仮説を支持する結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
次年度からは①3次元肺培養モデルで②慢性肺疾患モデルマウスを用いて、炎症性サイトカインや前駆体タンパク変換酵素の調節薬を投与することで、肺胞形成の過程に与える影響を形態学的、遺伝子レベル、蛋白レベルで総合的に評価していく予定である。また組織学的評価において、前駆体蛋白変換酵素と肺胞形成に関わる2型肺胞上皮細胞や筋上皮細胞との関連も比較検討する予定である。培養細胞を用いた検討では、筋線維芽細胞の初代培養を用いた検討から開始する予定で、2型肺胞上皮細胞でも検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定物品の選定に時間を要したため。来年度も引き続き計画に沿って実験に取り組む予定です。
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