研究課題
アデノウィルスを用いた放射状グリアの標識法を習得した。免疫組織学的解析から、新生児期脳傷害では放射状グリアが消失せず維持されることを見出した。また、電子顕微鏡による解析から、ニューロンが放射状グリアに接して接着構造を形成することを見出した。さらに、脳スライス培養による経時的解析から、ニューロンが放射状グリアに沿って傷害部へ移動する経過を捉えることに成功した。以上より、新生児期の脳傷害後では、生後の放射状グリアがニューロンの移動を支持することが明らかになった。次に、放射状グリアを足場にしたニューロン移動を制御する分子メカニズムを解明するため、胎生期の放射状グリアを足場にしたニューロン移動に関わるN-cadherinに着目し、その不活性体を組み込んだアデノウィルスベクターを作製した。このウィルスを用いて放射状グリアのN-cadherinを不活性化させたところ、ニューロンと放射状グリア間の接着構造が減少した。さらに、放射状グリアに沿うニューロンの割合と傷害部へ移動するニューロンの密度が減少した。以上より、N-cadherinが効率のよいニューロン移動に関わることが明らかになった。次に、N-cadherinが結合したゼラチンスポンジを作製し、新生児期マウス傷害脳へ移植したところ、傷害1週間後における傷害部へのニューロンの密度ならびに、傷害1か月後における傷害部周囲のニューロンの成熟が有意に増加した。さらに、複数の行動テストから、新生児期脳傷害モデルマウスでは運動機能が有意に低下し、N-cadherinスポンジ移植によって改善することを見出した。以上より、N-cadherinスポンジによって、新生児期脳傷害後のニューロン再生と神経学的機能回復を促進することに成功したことを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
平成29年度中に行う予定であった、生後の放射状グリアがニューロンの移動をサポートしている証明、を予定よりも早い時期に明らかにすることができた。そこで、平成30年度で行う予定であった、生後の放射状グリアがニューロン移動を制御する分子学的メカニズムの解明、を行った。さらに、この課題について、はじめに着目したN-cadherinについて、放射状グリアを足場にしたニューロン移動を制御するメカニズムを解明することができたことから、予定していたよりも早く進めることができた。そのため、平成31年度に予定していた、生後の放射状グリアの特徴をもつ人工的な足場の開発とニューロン再生の促進・神経学的機能の実現、について検討を行うことができた。
これまでに明らかになった知見を国際学会を含めた学術集会で発表し、広く知っていただく活動を行う。また、今回はニューロンの再生に着目したが、ヒトの新生児において代表的な脳傷害の1つに白質傷害がある。新生児大脳白質傷害は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(oligodendrocyte precursor cell: 以下、OPC)の成熟障害が主因である。所属する研究室のこれまでの研究から、新生児期の脳傷害後では、脳室下帯からOPC が傷害部へ移動することが見出されている。このことから、OPCについてもニューロンと同様の再生メカニズムが備わっているかに着目して研究をすすめることにする。
国内における学会発表について、旅費を用いずに参加することができたため、次年度使用額が生じた。平成30年度からは、当初予定しているよりも国内外の学会における発表などの機会が増えることが予想されるため、生じた次年度使用額は平成30年度における旅費として使用する予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
Cell Stem Cell
巻: 22 ページ: 128~137.e9
10.1016/j.stem.2017.11.005
http://www.nagoya-cu.ac.jp/about/press/press/release/files/20171222/291222.pdf#search=%27%E7%A5%9E%E8%BE%B2%E8%8B%B1%E9%9B%84%27
http://first.lifesciencedb.jp/archives/17736