本研究では、グリム兄弟による昔話注釈に含まれた、グリム兄弟の幅広い関心を整理し、その全体像を明らかにしようと試みた。彼らの研究は、現在では伝承文学研究、比較言語学、比較宗教学、民俗学、文化人類学、法制史にまたがることになり、なかなか光を当てられる機会がなく、グリム兄弟はさまざまな誤解にさらされている。また、現在の伝承の国際比較研究を参照しつつ、ヨハネス・ボルテとイジー・ポリーフカによるグリム兄弟の注釈の改訂作業のディティールを明らかにした。具体的には、グリム兄弟による「釘樽の刑」への見解、「蛇の3枚の葉」などに注目し、兄弟間の見解の違いや兄弟とボルテ/ポリーフカの見解の違いを明らかにしていった。最後に、グリム兄弟の仕事の全体像を総括し、彼らが昔話を神話論として遂行したことについて、日本への影響なども含めて多角的に検証するに至った。 『グリム童話』の編纂者であるグリム兄弟が人文学の学者であったこと、『グリム童話』も彼らの学者としての仕事の一環として生まれたという事実は、国内外を問わず、一般読者にはほぼ知られていない。それどころか、ドイツ文学者や伝承文学研究者といった専門研究者のあいだですら、グリム兄弟の仕事の全体像を理解した上で「グリム研究」がおこなわれることは稀と言って良い。研究代表者は「学者としてのグリム兄弟」の研究活動の学際性を全体として明らかにすることで、ドイツ文学研究や伝承文学研究はもちろん、広く人文学全体、さらには一般読者の間での「グリム兄弟」や『グリム童話』への理解を、これまでよりも広く深いものへと更新することに従事した。
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