本研究は文学・歴史学などの学術分野や中国学・琉球学といった各国家・地域研究を横断した学際的研究の一つとして、前近代最末期の琉球を生きた蔡大鼎の漢詩文について、文献調査・フィールド調査を併用して実証的に調査・分析し、彼の日本・中国・琉球に関する知の形成と集積の諸相を解明しようとするものである。 令和2年度は、主に前年度に引き続き、『北上雑記』から書名、作品名、漢詩文の引用、日本・中国・琉球の地名、歴史的人物の名などを抽出し、それらのデータについて分析した。特に、それらの出典、特に蔡大鼎が用いたであろう書籍・資料等を検討した。さらに最終年度であるため、これまでの研究成果を「琉球王国最末期の漢文学者・蔡大鼎の知の形成・集積」という統一的な視点、展望のもとに改めて整理、検討し、「近現代の琉球学・沖縄学」が遺してきた課題として近世末期の琉球漢詩文と文学、芸能、日中琉交流・交渉との関係の一端、またそれらがどのように漢詩文として表現されているかを明らかにするに至った。その他、これまで作成した蔡大鼎の漢詩文の訳注を再点検し、その刊行の準備を行った。 令和2年度の研究成果の一部は、7月に論文「赴日使節與日本文人之間詩文交往-以渤海國與琉球國之使節爲例-」(『國際漢學研究通訊』第19・20期、北京大学出版社)として発表した。令和2年度分を含め、研究機関全体を通じて、本研究の核心に関わる論文を4篇(未刊行分を除く)発表するとともに、口頭発表・講演を7件行った。
|