研究課題/領域番号 |
17K18019
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森鼻 久美子 名古屋大学, 教養教育院, 講師 (50640843)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 近赤外線天文学 / X線天文学 / 銀河面 |
研究実績の概要 |
天の川銀河の銀河面に沿って分布する見かけ上拡がったX線放射に銀河面リッジX線放射 (リッジ放射) がある。リッジ放射は数千万度にも及ぶ熱的放射で、X線スペクトル中に電離度の異なる3本の鉄輝線を持つ。リッジ放射は銀河バルジ領域では、暗いX線点源の重ね合わせであることが分かっている。その点源は定性的には磁場を持つ激変星やフレア星が考えられているものの、個々のX線点源の乏しい光子統計のため、個々のX線点源の正体をX線観測のみで調べることが難しい。また、銀河面上の他の領域でも暗いX線点源の重ね合わせで説明可能なのか、真に拡がった高温プラズマが放射起源なのか明らかになっていない。 そこで本研究は、星間吸収の影響が小さい近赤外線を用いて、銀河面上の激変星探査を行い、リッジ放射の起源を探っている。構成する種族としてこれまで考えられてきた激変星の近赤外線スペクトル中の水素の再結合線 (Paβ 1.28 μm)に着目し、Paβ波長帯にのみ透過幅をもつ狭帯域フィルターと本研究の1年目に製作したPaβ連続光取得用フィルターを用いて銀河面上の深いX線観測がある領域のマッピング観測を行なった。昨年度は悪天候のため、全領域の約2割の観測を終え、今年度は残りの領域のマッピング観測を継続して行ない、全視野の約9割の観測を終えた。観測した領域の視野の測光を行い、激変星候補天体を抽出した。 さらに、すばる望遠鏡による銀河バルジ領域の近赤外線深観測データの解析により、バルジ領域のX線点源の約50%に近赤外線で対応天体を見つけた。加えて、Gaia衛星DR2により初めてバルジ領域のX線放射の構成点源を視線方向に分解し、近赤外線、X線の性質を合わせて、バルジ領域の放射に寄与する天体種族は、磁場の強い激変星よりも磁場の弱い激変星や非接触型連星系の白色矮性連星系が寄与していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究での観測対象領域であり、チャンドラX線衛星により深いX線観測が行われているNorma arm 領域 (336.5度<銀経<338.5度, -0.4度<銀緯<0.4度、全61視野) を昨年度に引き続きPaβ波長域に透過幅を持つ狭帯域フィルター及びPaβ用連続光取得用フィルターで観測を行なった。その結果、全観測領域の約9割の領域の撮像データを取得することができた。輝線用フィルターと連続光用フィルターでの測光を行い、激変星候補天体を視野ごとに抽出した。 また、暗いX線点源の重ね合わせでX線放射が説明できる銀河バルジ領域のすばる望遠鏡でのJHKsバンドでの深撮像観測およびGaia衛星DR2のデータを用いて、バルジ領域の暗いX線点源を3次元方向に分解した。また、X線光度と赤外線光度の比から、バルジ領域のX線放射を主に構成しているのは、これまで考えられていた磁場の強い激変星に加えて、磁場の弱い激変星と質量降着率が小さい非接触型連星系をなす白色矮星連星系であることを示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の夏に、観測領域の残り1割の視野のデータを取得し、Norma arm領域の全領域の観測を終え、全領域での激変星候補天体を抽出する。抽出した激変星候補天体のX線での性質を合わせて、個々の候補天体が激変星かどうかの判別を行う。 また、すばる望遠鏡、Gaia衛星での結果をまとめ、銀河バルジ領域の構成種族について投稿論文としてまとめて発表する。
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