研究課題/領域番号 |
17K18020
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
角屋 智史 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (70759018)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 有機トランジスタ / 有機伝導体 / ドーピング / 電荷注入障壁 / ショットキー接合 |
研究実績の概要 |
セルフコンタクト有機トランジスタの電荷注入障壁を測定するために、ジメチルジシアノキノジイミン(DMDCNQI)の薄膜と各電極材料の接合界面を作製しようと試みた。しかし、DMDCNQIは蒸気圧が高く昇華点も低いため、真空蒸着における膜厚制御が困難であった。これを解決するため、真空蒸着装置に改良を施し、基板の温度を低温にして蒸着できるようにした。これを用いて実験を進めている。 ベンゾチオフェン骨格に基づく分子を合成し、電解結晶成長法で有機電荷移動錯体の単結晶作製を試みた。得られた単結晶について、X線構造解析を行い、分子配列を実験的に決定した。これらの原子座標を基にして、分子軌道のエネルギーを計算し、分子間トランスファー積分を算出した。また、実験的アプローチとして、伝導度測定と熱起電力測定を行った。得られたデータを照合し、考察を行った。 代表的な実験結果として、ベンゾチオフェン骨格の硫黄をセレンに置換したベンゾセレノベンゾセレノフェン(BSBS)を用いて新規な有機伝導体(BSBS)2AsF6と(BSBS)2SbF6を開発できた。この構造解析と伝導度、熱起電力測定を行い熱電素子としての性能を評価した。セレンに置換したことで、僅かに性能は低下した。これはカルコゲン元素の原子量が大きくなったことでフォノンの影響が大きくなったからであると解釈できる。一方で、得られた熱起電力の値を一次元エネルギーバンドの理論式に導入し、分子間トランスファー積分を実験的に算出できた。これまで、BTBT系半導体のトランスファー積分はDFT計算などの分子軌道計算で評価することが一般的であった。本研究では、半導体分子に基づく分子性導体のトランスファー積分の絶対値を決定できる手法として、新しい研究の展開が期待される。この研究の一部は米国科学雑誌J. Phys. Chem. Cに受理され裏表紙に採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在の研究機関ではDMDCNQIの真空蒸着において膜厚の制御が困難な状況にある。膜厚は電荷注入障壁を見積るために使用する「蓄積電荷測定法」において、測定値に大きな誤差を生じさせる要因となりうる。これを解消するために、真空蒸着装置に改良し、-20度の基板温度で蒸着をできるようにした。これにより、蒸気圧が高い化合物も比較的容易に膜厚制御できる見通しをもった。現在、実験をすすめている。低温基板蒸着が成功すれば、DMDCNQIだけでなくTCNQやフルオランテンといった同様に蒸気圧の高い化合物に適応できる可能性があり、薄膜トランジスタの性能向上が期待できる。新規有機電荷移動錯体の開発に関しては、BEDT-BDTに着目している。これまでに少量のサンプルを頂き、電解結晶成長法を試したところ、ラジカルカチオン塩が作製できることはわかったが、単結晶X線解析の構造が収束していない。現在、論文(J.Mater.Chem.C 6, 3604 (2018).)を参考にBEDT-BDTのスケールアップ合成に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
低温基板真空蒸着によって、作製したDMDCNQIに金、銀、銅をそれぞれ電極として蒸着する。銀、銅とは電荷移動錯体を形成するので、アニールなどを行い反応を促進する。このようにして作製したデバイスのトランジスタ評価と電荷注入障壁の評価を行う。今年度は、この測定を高真空下で行うためにターボ分子ポンプ排気システムを導入する。またBEDT-BDT類縁体を合成し、有機電荷移動錯体の開発を試みる。申請者がこれまでにも報告しているように、これらの半導体分子を含む金属的な電荷移動錯体の熱起電力、反射スペクトルからは分子間トランスファー積分の実験値を求めることができる。これまで、半導体分子のトランスファー積分はDFT計算などの計算的手法で見積もることが主流である。しかし、基底関数の違いなどで値が変化し、どの値が正しいのかは根本的には不明である。半導体分子を含む電荷移動錯体からトランスファー積分の実験値と計算値の違いを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は溶媒などの消耗品に関して、使用方法を見直しコストカットをするように努めた。また研究室内の人数も減ったため、消耗品に関する金額が節約できた。これは次年度の消耗品、10万円以下の小型器具などに使用する予定である。
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