本研究は日本人2型糖尿病患者コホートであるJPAD研究コホート(低用量アスピリン療法のランダム化比較対象試験の追跡コホート)を用いて、長期間の低用量アスピリン療法が日本人糖尿病患者における発癌・癌死亡に与える効果を検証する研究である。 2019年度には、2017年に実施しデータクリーニングが完了した追跡調査のデータ解析を行なった。2017年調査において観察期間は12.3年(中央値)、追跡率は61%であった。観察期間中の癌の発症例は358例(研究対象総数2536例)、癌死亡例は140例であった。癌発症例における内訳は、大腸癌63例、胃癌53例、肺癌39例、前立腺癌31例、膵臓癌26例、肝臓癌25例、乳癌19例、その他の癌102例であった。 低用量アスピリン療法の有無による癌の発症は、低用量アスピリン投与群で165例(発症率:14.4/千人年)、非投与群で193例(発症率:16.4/千人年)において認められた。生存解析では、低用量アスピリン投与群においてわずかに癌発症を低下させるものの統計学的な有意差は認めなかった(ログランク解析:P=0.3、COX比例ハザードモデル:ハザード比 0.89、95%信頼区間 0.72-1.09、P=0.3)。従来から低用量アスピリン療法による大腸癌発症率低下の報告があり、本研究において大腸癌について個別解析を行なったが、統計学的に有意な大腸癌発症低下は認めなかった。 なお男女別では、全ての癌の発症は男性232例(男性総数1386例)、女性126例(女性総数1150例)において認められた。低用量アスピリン投与による癌の発症率低下は男女ともに統計学的有意差を認めなかった。
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