本研究の目的は、筋細胞と毛細血管のクロストークが骨格筋インスリン抵抗性治療に与える影響を明らかにすることである。毛細血管は筋細胞へ酸素や栄養素を供給し、骨格筋応答を調整する一方で、毛細血管も筋細胞により増減が制御される相互依存の関係である。筋収縮の有無を介した酸素需要の増減が毛細血管調整に必須であると仮説を立て、筋収縮による酸素需要に応じた毛細血管新生(機械的)と薬剤等による酸素需要を介さない毛細血管新生(化学的)が筋萎縮予防およびインスリン感受性に与える影響を比較した。結果、予測に反して酸素需要の有無に限らず「筋→毛細血管」および「毛細血管→筋」ともに、筋萎縮予防効果およびインスリン抵抗性改善の効果が得られた。 <酸素需要に応じた毛細血管新生(機械的:筋→毛細血管)> インスリン抵抗性モデル(廃用性筋萎縮モデル・高脂肪食摂取による肥満ラット)に対するパルス磁気刺激は、ラット後肢骨格筋における筋毛細血管退行を予防し、筋萎縮予防効果を発揮した。また、収縮様式としては求心性収縮を用いることが遠心性収縮および等尺性収縮様式と比較して、毛細血管退行予防に最も効果的であることを確認した。 <薬剤による毛細血管新生(化学的:毛細血管→筋)> インスリン抵抗性モデル(廃用性筋萎縮モデル・高脂肪食摂取による肥満ラット)に対するプラゾシン投与は、非発芽性の血管新生を促すことで、骨格筋毛細血管退行を抑制し、血管新生を介した筋萎縮予防効果が得られることを確認した。萎縮進行中にプラゾシンを投与することで筋線維あたりの毛細血管比率(C/F ratio)が投与していない群と比較して約2倍に増加することを明らかにした。血管増加に伴い、骨格筋代謝の向上、インスリン抵抗性の改善、そして筋萎縮予防効果を確認した。
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