本研究では正確で安全な杖歩行を習得するための要因を明らかにする目的で,杖歩行における運動イメージの特性および運動イメージと運動機能との関連を検討してきた.今年度は運動イメージの正確性と運動機能との関連について分析を進めるために,追加実験で対象者数を増やし,分析を行った. (1)松葉杖あり・なし条件における歩行イメージの正確性の追加実験を行った.健常若年者(89名),健常高齢者(13名)を対象に,松葉杖あり・なし条件における歩行イメージの正確性を心的時間測定を用いて計測した.心的時間測定を用いた歩行イメージの正確性は,{(実測時間-イメージ時間)/実測時間}で求め,正の値は過大評価,負の値は過小評価であり,0に近いほどイメージが正確で値が大きいほど過大評価もしくは過小評価の程度が大きいと判断した.これまでの実験結果と同様に,松葉杖歩行では,自身の歩行速度を過大評価することを確認した.また健常高齢者において,歩行イメージの正確性に関連する因子を分析するため,重回帰分析を行ったところ,関連因子としてTUG時間が抽出され,TUGが遅い(運動機能が低い)対象者ほど過大評価の程度が大きいことが示された. (2)歩行イメージと運動機能との関連について,健常若年者(89名),健常高齢者(33名),要介護高齢者(42名)において分析した.各群での歩行イメージの正確性と歩行速度との関連について相関分析を行った.その結果,健常若年者と健常高齢者では歩行イメージと歩行速度との有意な相関は認められなかったが,要介護高齢者においては,有意な負の相関(r = -0.42)を認め,歩行が遅い対象者ほど過大評価の程度が大きいことが明らかとなった.
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