研究課題/領域番号 |
17K18074
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
大平 哲史 青山学院大学, 情報メディアセンター, 助教 (60711843)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 罰 / 意思決定のコスト / 共進化機構 / 協力 / 空間囚人のジレンマゲーム / マルチエージェントシステム |
研究実績の概要 |
令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大という未曽有の状況の中、本務校における業務が激増し、令和元年度の実績報告書「今後の研究の推進方策」にて当初予定していた計画を大幅に変更せざるを得なくなった。本研究課題で令和元年度から取り組んでいるテーマの中で、平成29年度に発表した学術論文のモデルに報酬を導入することについて、2020年度の数理生物学会年会において発表したことが、令和2年度の主な研究業績である。協力的な相手に報酬を与えることで、囚人のジレンマゲームの多人数拡張版である公共財ゲームにおいて、協力が生まれることは既に知られている。その議論を踏まえ、研究代表者はこれまで提案してきた、より多く利益を得ている非協力者に対し、より高い確率で罰を与えるという確率的ピア懲罰とちょうど反対となる概念、すなわちより貧しいものに対して、より高い確率で報酬を与えるという、確率的報酬を新たに提案し、参加者同士が空間的な結びつきを持った、空間囚人のジレンマゲームにおいて、確率的報酬の導入が協力関係の発展、すなわち協力進化につながるかどうかを調べた。その結果、特に参加者の平均的な結びつきの数<k>=4の規則正しいRegularと一部の参加者の結びつき数が極めて大きいScale-freeの相互依存関係において協力が進化し、そしてこれまでの研究とは異なる新たな結果として、貧しい協力者のみならず貧しい裏切り者にも報酬を与えるという、普遍的な報酬によっても協力が進化することが分かった。本研究結果は2020年度の数理生物学会年会においてオンラインでポスター発表を行い、関連する分野の研究者と有意義な議論を行った。一連の研究成果については、複数の論文として現在執筆中であり、今後学術誌へ投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、先に「研究実績の概要」で述べた通り、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、令和元年度の実績報告書の計画を大幅に変更せざるを得なくなったものの、平成29年度の交付申請書に記した当初の研究実施計画と比較すれば、順調に進んでいる。すなわち平成29年度には、当初は平成30年度に行う予定であった、研究代表者が提案した確率的ピア懲罰と、空間囚人のジレンマゲーム参加者の戦略のみならず、参加者同士の結びつきも参加者の好みに応じて進化する共進化機構の組み合わせにより、協力進化が生じにくいとされる状況でも、高いレベルの協力進化とプレイヤーの平均利得の大幅な向上をもたらすという新しい知見を得て、学術論文として発表した。さらに平成30年度には、意思決定のコストを考慮する研究の急速な発展を踏まえ、人が意思決定をしなければならない状況は、その人に対して心理的な負担を強いるものであると考え、これを意思決定のコストと定義し、新たにモデルを構築し研究を進め、最終的な成果を学術論文として発表した。そして平成29年度の実績報告書にて記した、新たに空間囚人のジレンマゲーム参加者による相手の参加者への報酬という要素の導入については、予想よりもモデルの定式化が困難であったものの、令和元年度の実績報告書にて述べた通り、基本的な成果を国際会議The 25th International Symposium on Artificial Life and Roboticsで発表でき、さらに「研究実績の概要」で述べた通り、新たに普遍的な報酬によっても協力が進化することが分かった。これらの報酬という要素の導入に関する研究成果をまとめ、学術誌への投稿に向けて複数の論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、空間囚人のジレンマゲーム参加者による相手の参加者への報酬という要素の導入に関する研究成果をまとめた複数の論文を基盤とし、これまで研究代表者が提案してきた確率的ピア懲罰が、空間囚人のジレンマゲームという一対一の枠組みにおいて、他の手法よりも協力進化において優位であることを改めて示し、その成果を本務校の授業「情報スキルII」におけるアンケートにより得られた、学生のソーシャルメディア利用実態に基づいてより精緻化、大規模化したモデルへと適用可能か検討する。その結果として得られる知見を統合し、社会的に大きな影響力を持つNature Publishing Group発行の論文誌(例:Nature Communications)や、自律エージェントとマルチエージェントシステムに関する著名な論文誌(例:Autonomous Agents and Multi-Agent Systems)で発表するだけでなく、社会的影響力の大きい学会/シンポジウム(例:来場者数が毎年5,000人規模となる慶應義塾大学SFC研究所主催のSFC Open Research Forum)における発表、さらには研究代表者の個人ホームページにおいて広く公開することで社会に還元したい。また、本学総合研究所2019年度採択研究ユニットの共同研究プロジェクトを通して、本研究成果をソーシャルメディアの利用における合意形成に必要な枠組みへと早期に応用できるよう、他分野の研究者と積極的に連携を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 1つ目は、研究代表者が参加すべき国際会議、国内学会について、研究の進捗状況を踏まえてよく吟味して参加してきたためである。2つ目は、各プレイヤーによる相手プレイヤーへの報酬という、当初の研究実施計画になかった要素を導入することについて、令和元年度の実績報告書で述べた通り、予想よりもモデルの定式化が困難であり、研究成果が得られるのに時間を要したためである。3つ目は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、令和元年度の実績報告書の計画を大幅に変更せざるを得なくなったためである。 (使用計画) 以上の理由のため、本研究と関連するテーマを扱う国際会議、国内学会については、研究の進捗状況を踏まえ、引き続きその開催内容を吟味したうえで積極的に参加および研究成果の発表を行い、異分野の研究者とのネットワーク構築をさらに進めていきたい。一方で新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、国際会議や国内学会が予定通り開催されない可能性も引き続きあるが、その場合は令和元年度と同じくWeb会議システムを活用し、異分野の研究者と議論を行いたい。また、この4年間の使用により不具合が生じているワークステーションのグラフィックボード交換と、性能向上の著しいノート型PCの更新も視野に入れている。
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備考 |
2020年12月:Nature Publishing Groupが発行するオープンアクセスの電子ジャーナルであるScientific Reportsに投稿された論文の査読を担当
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