本研究は、重症敗血症における骨格筋でのミトコンドリア機能障害の発生機序とそれに対するファルネシル化変換酵素阻害薬(FTI)の効果を解明することを目的としている。 敗血症モデルとして、マウスのcecum ligation and puncture(CLP)モデルを用いて実験を行った。C57BL/6マウス(生後8週、雄)に対して、CLPを施行し敗血症モデルを作成した。CLP作成2時間後よりFTI(5mg/kg/day)もしく生食(コントロール群)を皮下注し、その生存率を比較した。次に、CLP作成3日後のマウスの腓腹筋を採取し、電子顕微鏡を用いてミトコンドリアの形態を評価した。また、CLP作成3日後のマウスより血液サンプルを採取し、PCR法を用いて血清中のミトコンドリアDNAの量を比較した。 敗血症モデルマウスの生存率に関して、FTI投与群で有意に生存率が高いことが示された。また、敗血症によって惹起されたミトコンドリアの形態異常(cristae構造の欠落)がFTI投与によって改善することを示した。さらに、血中のミトコンドリアDNA量もFTI投与群で少ない傾向があることが示された。 ミトコンドリアDNAはDAMPS(damage-associated molecular patterns)のひとつとして働き全身の炎症を増悪させることが知られている。我々の研究結果から、敗血症モデルマウスにおいて、FTIの投与によって骨格筋でのミトコンドリア構造が維持されることにより、血中へのミトコンドリアDNAの漏出が抑制され、その結果として、敗血症マウスの生存率が向上する可能性が示唆された。
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