研究課題/領域番号 |
17K18093
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
加藤 純悟 慶應義塾大学, 医学部, 研究員 (40465018)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経成長因子 / 痛覚神経活性化マーカー / 精製タンパク / 後根神経節 in vitro assay / ウェスタンブロット |
研究実績の概要 |
本研究の初年度にあたる平成29年度は、主に神経成長因子(NGF)の変異体であるR100E NGFマウスの関節炎症時における無痛の機序解明に努めてきた。R100E NGFマウスの唾液腺を用いたウェスタンブロットでは、R100E NGFマウスも野生株と同様に成熟NGFを生成することがわかり、R100E変異による無痛現象はおそらく、NGFの生成・分泌の低下ではなく、NGFシグナリングの異常によるものであることが裏付けられた。ウェスタンブロットの結果を詳しく見ると、R100E変異NGFでは、N-terminal octapeptideを欠いたshort formであるB-chainがdominantであることが判明した。このマイナーは違いは、NGFの神経成長因子としての機能に大きく影響を与えることは報告されていないが、もしかしたら無痛を生じるシグナリグ異常の原因になっている可能性がある。 R100E NGF変異によるシグナリングの変化を調べるため、足関節炎症モデルにおける脊髄後根神経節での痛覚神経の活性化を調べた。phospho-p38、pERK、CGRPなどの活性化を示すマーカを標的として免疫染色を行なったが、野生株でもこれらの上昇は認められず、比較検討に至らなかった。 R100E NGFによるシグナリングの変化は今後、共同研究先であるKarolinsk Institutetと協同で野生種NGFとR100E変異NGFの精製タンパクを用いて、後根神経節の分散培養を用いたin vitroアッセイにより突き詰めていく。 マウスの疼痛の行動解析においては、本研究の特徴であるDynamic Weight Bearingシステムを用いた自発痛の評価が順調に稼働している。平成31年度に計画していた手術後痛モデルにおいてもマウスの自発痛評価に有用であることが示された
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
R100E NGF変異マウスの無痛機序を調べるために、関節炎症モデルでの免疫染色を計画していたが、Day7において野生株でもphospho-p38、pERK、CGRPなどの既知の痛覚神経系活性化マーカーが上昇を示さなかったため、比較検討ができなかった。組織摘出のタイミングや活性化マーカーの変更の必要があることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
R100E NGF変異マウスの関節炎症時の無痛機序をさらに突き詰めていくため、共同研究先のKarolinska InstitutetのCamilla Svenssonと協同で、野生株NGFとR100E変異NGFの精製タンパクを唾液腺から精製し、脊髄後根神経節の分散培養を用いたin vitroアッセイにより、R100E NGFによるシグナリング異常を解析する。また、このR100E NGFタンパクを関節内に投与することで、野生株NGFと比較した疼痛惹起性を検討することが可能となる。 平成30年度はこれら並行して、当初の予定である、NGF変異によるシグナリング異常をその受容体であるp75を標的とした阻害薬を投与することにより再現し、関節炎症モデルによる鎮痛効果を評価していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入予定で予定支出の大部分を占めていたマウス用体重負荷測定システムを別の教室研究費により購入したため、余剰が生じた。その一部は免疫染色用の抗体購入などの物品費に充てたが、残りを次年度使用額として計上することとなる。本年度の研究結果により免疫染色・生化学実験用の抗体・試薬類を追加で購入する必要が出てきたため、次年度請求分と合わせて、主に物品費に充てる予定である。
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