前年度ではX線照射によるAgゼオライト蛍光ナノ粒子の蛍光強度増大について評価した。今年度は同材料を用いて透明な波長変換膜を作製し、その特性評価を行った。また、前年度の知見を活かし、蛍光強度の増大についても検討した。膜を作製するための事前準備として、石英ガラス基板をアセトンで洗浄・乾燥し、親水化処理装置により基板表面の親水化処理を行った。前年度と同様に得た銀ゼオライトナノ粒子の分散液を遠心分離して得たペースト状試料0.1 g に超純水を1 mL 加え、超音波照射しながら撹拌して分散させた。この分散液を親水化したガラス基板に滴下し、1000 rpmでスピンコーティングして30 ℃ で一晩乾燥させ膜試料を得た。得られた膜試料は見た目に透明であった。一方、透過スペクトルを測定すると、Agゼオライトによる吸収ピークは明確には見られなかった。また、蛍光スペクトルを測定しても、観測された蛍光は微弱であった。これらはAgクラスターが十分に生成していないためと考え、ゼオライト内のAg+の還元処理を行った。まず膜試料にX照射を施したが、蛍光強度に大きな変化は見られなかった。そこで焼成による還元処理を試みた。膜試料を管状炉内に設置し、アルゴンガスを流して、5 ℃ min-1で昇温を開始した。ゼオライト骨格の損傷を防ぐために昇温の途中の100 ℃および150 ℃で15 minずつ保持してから、さらに450 ℃まで昇温して6 h保持し、室温まで自然冷却した。焼成後の試料の透過スペクトルにはAgゼオライトによる吸収ピークが現れており、蛍光強度も大きく増大した。以上の様に、還元手法の違いによって蛍光強度に与える影響が大きく異なった。その原因について、X線照射による方法では膜試料をほとんどのX線が透過してしまい、還元の効率が低く効果が小さかったことが考えられる。
|